あれほど支持が高かった「フォード・アングリア」がカーレースから姿を消した理由とは

フォード・アングリア



2台のアングリア
マックスのスーパースピード・アングリアは、レースカーとしてeBayに売りに出されていた車をベースにしたものだ。だからといってこのボディがノーフォークの納屋で25年間にわたって眠り続けていたわけではない。360ポンドという値段は予想外だった。これには有名な"エクストラ・アンチロールバー"、ロータス・コルティナ・ストラット、特別に改造されたステアリングアームなど、当時のレースカーならではのパーツも含まれていた。さらに詳しく見ると、オリジナルとは微妙に異なる、しかし洗練されたモディファイが加えられていることに気づく。すべてのサスペンションに取り付けられたブロンズ・ブッシュはゴム製に置き換えられる、ステアリングとギアボックスのメンバーは低い位置に移り、リアサスペンションのスプリングにつけられたキャンバー角は見直されていた。

ギアボックスは極めて希少なもので、ロータス・コルティナに純正だったオールシンクロメッシュ式の1速をハイギアードにしたタイプ(3000ポンドという魅力的な価格)。さらにT1と呼ばれるシリンダーヘッドは、言い伝えによると週末に生産ラインで特別に鋳造されたもので、ごく一部のユーザーにしか供給されなかったとされる。 これに比べると、ナイジェル・ケンプのアングリアはやや性能的に劣るものの、フォード直系のチューニングを施したという意味ではまったく同じ関係にある。ベースは 1198ccスーパーではなく997ccのデラックスだ。アングリア・ファンであれば、スーパーには車体の全長にわたってクロームのトリムが施されていたことを指摘するだろうが、ケンプのアングリアにもちろんそれはない。

"新しく作られたヒストリック・レーサー"として活躍した後、1990年代にはグッドウッドに何度も登場したというこのアングリアは、ほとんど完璧な状態のボディシェルを有している。もともとのオーナーが大事に保管していた車がベースだが、数人の手を経た後にスペシャリストとして知られるガイ・スミスのもとにやってきたようだ。

もちろん、そのスペックは当時をそのまま再現したもので、ロータス・コルティナ仕様のストラット、ディスクブレーキ、樹脂製ブッシュなどが取り付けられている。エンジンはスーパーの1198ccで、キャブレターはホモロゲーションを受けたコルティナGT用のウェバーを装備。当時のものでないのは、安全タンク、ジェル・セル・バッテリー、モダンなシート、そして消火器くらいで、グローブボックス・リッドやプラスチック製のドア・トリムは往年のものをそのまま使っている。目映いばかりの塗装はそれだけでも7000ポンドに相当するそうだ。

2台のオーナーはともにイギリス・ノーフォーク在住なので、ダーリントン近郊のクロフト・アウトドローモをテストの場として選んだ。ヨークシャーの美しい緑と心躍るような丘は昔からまったく変わってないので、写真の背景としては申し分ないこともクロフトを選んだ理由のひとつである。ガードレールが最小限に留められていて、昔ながらの高速でバンピーなコーナーが残されている点も好ましい。実は、私が初めてレースに出場したのもこのクロフトだった。それは1973年のことだが、このときアングリアがパドックに佇んでいたどうかはどうしても思い出せない。いや、きっとそこにもいたのだろう。


マックス・ロストロンのスーパースピード・アングリアはファンの妄想が生み出したもので、レースで活躍した当時のアングリアのボディをベースとしている。ノーフォークの納屋にサビだらけになって放置されていたが、当時の代表的なレース用パーツが取り付けられていた

編集翻訳:大谷 達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Mark Hales Photography:John Colley

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