イタリアとアメリカの血も色濃く流れる偉大な英国車

Photography: Matthew Howell



『Motor』誌は、「これまでテストした中で最高の
長距離ドライブ向きグランドツーリングカー」と評している。だが消費者には気に入られなかった。C-V8は外部からの干渉のせいで、担当した社内のデザイナー、エリック・ニールの意図した通りにはならなかった。次にニールが手がけたのが通称P66だ。インターセプターのバッジを付けて1965年アールズコートで発表され、量産に入ると見られていたが、古くさいと考えた一部の反対を受けてお蔵入りとなってしまった。これが社内に対立を生む。一方は創設者のジェンセン兄弟とニール。対するもう一方は社長のブライアン・オーウェンとチーフエンジニアのケビン・ビーティ、会社を1959年から所有するノークロス・グループだった。結局、1966年にアランとリチャードのジェンセン兄弟は30年以上前に自ら興した会社を去り、ニールもあとに続いた。以後ジェンセンは、将来のデザインをイタリアに託す方向へと進んだ。

新経営陣はカロッツェリア・トゥーリングにデザインを任せる決定を下した。トゥーリングが自身のスーパーレッジェーラ方式でボディ製造を請け負ったことが決定の理由のひとつだった。元を辿ればジェンセンはコーチビルダーとして名を成したのだから、これは皮肉な決断であったといえよう。当初ジェンセンがトゥーリングに発注したボディシェルの数は、15台とも50台ともいわれている。プロトタイプから量産型への移行を迅速に行うため、ミラノで製造する予定だった。

だが、肝心のトゥーリングは製造などできる状況ではなかった。一時は、英国のルーツ・グループとの契約で自社の製造施設を建設したが、この契約が破綻したことでトゥーリングは大損したのだ。結局、初期のインターセプターのボディパネル製造は、アルフレード・ヴィニャーレの会社に託されることとなった。



外観が華やかなインターセプターだが、中身はC-V8のスチール製シャシーのボックスセクションをほぼそのまま使い、そこにスチール製の骨格を溶接した構造であった。エンジンは以前と同じ鋳鉄ブロックの6276ccクライスラー製V8で、出力325bhp、トルクはなんと425 lb-ft(58.6kgm)におよんだ。後輪駆動、デーナ製リミテッド・スリップ・ディファレンシャルを装備。4輪ダンロップ製ディスクブレーキというレイアウトもC-V8を踏襲した。

インターセプターはすぐに成功を収め、ジェンセンはシリーズⅠを1074台生産。そのうち24台だけがマニュアルだった。1969年10月にはインターセプターⅡが登場し、サスペンションのセッティングが変わり、ダッシュボードが新しくなった。その2年後に出たインターセプターⅢは、ベンチレーテッド・ディスク・ブレーキと、上面がなめらかにつながったダッシュボードに変わり、7. 2リッターのSPも加わった。さらに、技術的な意欲作のフルタイム4WDの"FF"、美しいコンバーティブル、それをハードトップにしたクーペも誕生した。

だが成功は長くは続かなかった。ノークロス・グループは1968年にブランツ・バンクに身売り。その2年後、サンフランシスコに住む自動車業界の大物ジェル・クヴェールが84%の株式を取得した。ノルウェー生まれの"ミスターQ"は、生産数増加を図った。その断固とした経営手法は英国的ではなかったが、アメリカでの販売強化を推進して様々な開発も進めた。ジェンセン・ヒーレーと姉妹車のジェンセンGTがその目玉だ。これをデザインした元アストン・マーティンのウィリアム・タウンズは、ほかにも非常に魅力的な構想を持っていたが、残念ながら実現しなかった。インターセプターの課題は信頼性の向上だった(同時代のライバル車も同様だ)。

一番の打撃は石油危機だった。この影響で燃費の悪いスーパーカーの需要が一気に消え、景気の後退、消費税導入、週3日操業制などが追い打ちをかけた。1972年にジェンセン・モーターズが計上した税引き前利益はわずか20万ポンドで、2年後には赤字に陥り、1400人強の従業員のうち半数が解雇された。万策尽きたクヴェールは1976年に廃業を決断した。

これまでにもインターセプター復活の試みは何度も行われている。この車の魅力を物語るなによりの証拠であろう。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words: Richard Heseltine 

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