イタリアとアメリカの血も色濃く流れる偉大な英国車

Photography: Matthew Howell



後期モデルのほうがパフォーマンスでは勝るが、シルエットの繊細さではシリーズⅠに敵うものはない。安手なグリルなどなく、大きなテールライトがあるだけと、初期のインターセプターは端正だ。イタリアからの遺産でありながら、英国らしさを頑なに保っている。盛り上がったボンネットのラインやばっさり裁ち落としたような前面の処理には、現代のアストン・マーティンを思わせるものがある。リアエンドはジョルジェット・ジウジアーロが手掛けた1963年ベルトーネ・テストゥードからヒントを得たのかもしれない。トゥーリングのチーフデザイナーはフェデリコ・フォルメンティだ。あまり知られていない人物だが、これ以前にもアルファ・ロメオ1900CSSやアストン・マーティンDB5などの魅力的なデザインを生み出している。

インターセプターの外観は、美人というより角張ったあごと男性のイメージだ。一方、インテリアはイギリスのブルドッグではなく、イタリアらしい洒落た雰囲気が香る。ペダルがオフセットしているため、シートポジションはある程度限定されるが、速度計と回転計は別々のフードに収まり、センターコンソール上の様々なスイッチやライトなども、いかにも1960年代後半らしい。

世界中を飛び回るセレブリティーになった気分で、一足飛びに(燃料補給は別として)大陸を股にかけるといった夢を描かずにはいられない。究極のGTに相応しくカーゴスペースは450ℓもあり、長距離旅行の荷物をたっぷり積み込める。後部座席は“+2 ”程度のもので、近距離用のものだ。

インターセプターの性格を決定づけるのがエンジンである。大排気量のクライスラーV8は、サラブレッドに搭載されるピーキーで神経質なエンジンとは対極にある。富裕層向けの大人の乗り物として企画されたのだが、強大なパワーを楽しもうと、直線路では荒っぽく床まで踏み込む不作法を楽しんでしまうことだろう。V8エンジンはクルージングでは静粛だが、キックダウンしてトルクフライトATが目覚めれば、音量とスピードが一気に高まる。その時には痺れるようなアメリカンV8が牙を剥く。



インターセプターは長距離ドライブには最高のグラントゥリスモであることは間違いないが、当然ながらこれにスポーツカーの俊敏さを求めるのは酷なことだ。コーナリングで踏み込むとバンプではリアの挙動が不安定になり、無理をさせると少し左右に振れる。コーナーではスローイン・ファーストアウトを守るのが得策だ。ATセレクターで2速を選び、エンジンブレーキをきかせて、巨大なトルクを利用するのは方向転換が終わってからにしたほうがいい。ジェンセンは従順なオールドカーだ。初期のモデルにはパワーステアリングの備えがないが、その分、低速でも走りやすいレシオが設定されている。

インターセプターの魅力は数多い。これまでの批評家と同じようにシビアになって、たとえばOHVエンジンやリーフスプリング式リジッドアクスルについて、DOHCで独立式リアサスペンションのスポーツカーなどと比べて洗練されていないと言うこともできる。

だが、そのクラシカルなメカニズムこそがインターセプターの個性であり、美点でもある。人を虜にするボディと、信頼性の権化のような(叩けば直りそうな)アメリカンV8エンジンを組み合わせている。イタリアンのスタイル、イギリスの威厳、アメリカの力強さ。アメリカン・パワーを載せた混血は多いが、ここまで見事にそれを生かした魅力的な例はなかなかない。きちんと整備されたインターセプターで確認してはいかがだろうか。

1969年ジェンセン・インターセプター・シリーズ Ⅰ
エンジン:6276cc、V型8気筒、OHV、カーター製4バレルキャブレター
最高出力:325bhp/4600rpm 
最大トルク:58.6kgm/2800rpm
変速機:オートマチック前進3段+後退、後輪駆動
ステアリング:ラック・ピニオン、パワーアシスト付き
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピック・ダンパー、アンチロールバー
サスペンション(後):リジッドアクスル、デュアルレート半楕円リーフスプリング、パナールロッド、テレスコピック・ダンパー
ブレーキ:ダンロップ製ディスク
車重:1677kg 
最高速度:220km/h(公称値)
0-100km/h:7.3秒

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words: Richard Heseltine 

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