もっとも速く、もっとも美しい|ベントレーにおける「最良の答え」を示した伝説のモデルとは?

1953年ベントレーRタイプ コンチネンタル ファストバック(Photography:Charlie Magee)



驚くほど繊細に作られたドアを開け、真っ赤に塗られたトリムで設えられた室内に入る。単に古いという言葉では表現できない、熟成された独創性というべきものが漂ってくる。シートやドア、ルーフライニングのクロス、木製のダッシュなどはそこはかとなく高級な雰囲気。ダッシュなどはミッド・センチュリーに作られたサイドボードのようでもあり、ベントレーの文字をあしらった速度計や回転計とよくマッチしている。計器はどちらも針の動きが右上から始まる特殊なものだ。操作方法も特殊だが、乗り込むのはもっと大変だ。ドアを開けるとすぐのところにフットウェルから生えたギアレバーが行く手を阻むかのように立っているので蹴らないよう注意して入るのだが、そのあとも大変。大径のステアリングホイールとシートの間のわずかな空間に腿や膝を滑り込ませなければならない。ギアレバーが膝くらいの高さに抑えられているのは、少しでも乗り込みやすくするためのものだったのだ。窓の巻き上げハンドルはわずか2回転で下降するハイレシオで、Rタイプ・サルーンの使いやすさが継承されているのはうれしい。

直列6気筒エンジンは、スロットルを少し開けただけで深々と呼吸したあと猛然と目覚めた。聞こえるのはそれだけで、メカニカル・ノイズの類いは一切ない。これには驚かされた。ギアを1速に入れて動き出す。ギアは固く、ステアリングはめっぽう重い。長いボディであることを常に頭に入れておかなければいけない。そう、コンチネンタル(=大陸)の名称は伊達ではない。これはタウンカーではないのだから。

ところがひとたび何の制約もない道路に出ると事態は一変する。すべてが素晴らしさに変わるのだ。通常のドライビングポジションより少し高い位置に座り、スポーツカーのように足を前方に突き出した姿勢をとる。バケットシートは的確に体をホールドし、革製シートにありがちな体の滑りも軽微だ。ステアリングを切ると、車は驚くほど正確にドライバーが思ったとおりの方向に向きを変える。フロントの上側がウィッシュボーンとコイル、リアがダブルアクション式レバーアームとコイルからなるサスペンションは決して洗練されたものではないが、時代遅れのものでもない、当時としては一般的なものだ。乗り心地は跳ね気味で、ときに小刻みに揺すられるものの、パタパタ走るわけではなく、歯をガタガタと鳴らすまではいかないが、それなりのバウンドを感じるもの。そしてひとたびパワーを与えると、まるで連携しているかのようにステアリングにも活気が出て、重かった操舵力も一気に軽くなる。アクセルペダルを踏む力は終始強めだが、それさえ我慢すればロングホイールベースのおかげで平和なクルージングが楽しめる。その様はまさにエレガント!

美的要素がさらに満足できるレベルに上がったなら、このベントレーRタイプ・コンチネンタル・ファストバックの価値は途方もなく高くなるはずである。


1953年ベントレーRタイプ コンチネンタル ファストバック

エンジン:直列6気筒、IOE、4566cc、SUキャブレター×2基
最高出力:153bhp/4000rpm ギアボックス:4段MT、後輪駆動
サスペンション(前):独立式、ダブル・ウィッシュボーン、コイルスプリング、レバーアーム・ダンパー
サスペンション(後):リジッド式、コイルスプリング、2段作動式レバーアーム・ダンパー
ステアリング:ウォーム&ローラー ブレーキ:ドラム
重量:1700kg 性能:060mph(約96km/h)加速13.6秒

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Glen Waddington Photography:Charlie Magee

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