81年で走行距離1万5000マイル│最もオリジナルのベントレー

Photography:Tim Andrew

W・ランドルフ・エンジェルは、このベントレー3.5リッターを59年間大切に保管し、めったに使用しなかった。時間を飛び越えてきたかのような1930年代のベントレーをジョン・シミスターが試乗する。

何をもって"オリジナル"と呼ぶべきか。難しい問題だ。はっきりしているのは、昨今では、車がオリジナルならフルレストアを受けた車より大幅な高値が付くこと。そして、その差がかつてないほど広がっていることだ。よく、オリジナルと呼べるのは一度きりだといわれる。オリジナルでなくなったら、消え去ったヒストリーは二度と取り戻せない。

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同じ車でも、オリジナルと捉える人も改変済みと捉える人もいる。古艶もいつかは薄汚れ、"タイムワープ"の状態も"賞味期限切れ"になるが、その境界はどこにあるのだろうか。もしオリジナルが厳密に"製造時そのまま"という意味なら、本当にオリジナルといえるのは最初のナノ秒だけだ。その後は分子レベルで刻々と変化していく。

ここに、その名も『Originals』という本がある。保存状態のよい車を観賞した興味深い著作集だ。完全なオリジナルコンディションを保つことの難しさを主題に、オリジナルとは何かを現実的に定義しようと試みている。その中で元ブルックランズ・ミュージアムCEOのアラン・ウィンは極端な場合を想定している。空調のきいた暗い理想的な保管場所で、紫外線による劣化が起きず、シール材もフルードも奇跡的によい状態で維持された車があったとしても、そこから走り出した瞬間に、もう完全なオリジナルとはいえなくなる、と。

ウィンは100年もののワインに例えている。暗く涼しい地下室で保管されている限りは最高の財産だが、本来の目的通り中身を飲もうとボトルを開けた瞬間に、その神秘性はかき消えてしまう。あとは味が落ちていないことを祈るばかりだ。



さて、これを踏まえてご覧いただきたいのが、この1937年ベントレー3.5リッター・ヴァンデン・プラ・ドロップヘッドクーペである。新車からの走行距離はわずか1万5500マイル。本格的なレストアを受けたことはないが、今でも完璧に動く。驚くのがヒストリーを証明する書類の山だ。最初の注文書と請求書に始まり、保証書が収まる紙筒には、ジョージ5世が描かれた2ペンスの切手まで残っている。もちろん紫の表紙のオーナーズハンドブックもオリジナルだ。

なんと塗装もオリジナルだという。はたして本当だろうか。ここはオーナーのアンソニー・ホッジソンが暮らす広々とした元ファームハウスだ。背後にはスーパーマリン・スピットファイアのグラスファイバー製実物大レプリカが鎮座する(以前は本物を所有し、アクロバット飛行を楽しんだという)。私は長い車寄せでベントレーをじっくり観察した。すると、運転席側のリアフェンダーが、他の3箇所の濃いえび茶色よりわずかながら茶色みが強いのに気づいた。微細なひび割れも少々多い。この部分は20世紀中頃に修復を受けたに違いない。その際に、ヴァンデン・プラでの最初の塗装より多少品質の落ちるペイントが使われたのだろう。それにしても、ベントレーのトネリコ材の木骨をアルミニウムパネルで覆ったボディは、"古艶"の見本にしたくなる美しさだ。

実はこのベントレーもレストアを受けている。といっても、新しいパーツを山ほど使用して新車同然にするレストアではない。初期のよりよい状態に戻すため、慎重に最低限の修繕を施したというべきだろう。アンソニーはこう表現する。「レストアしたわけじゃない。1万5000マイルの整備をとびきりのレベルでやったんだよ」

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Simister 

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