81年で走行距離1万5000マイル│最もオリジナルのベントレー

Photography:Tim Andrew



ベントレーを甦らせるためにアンソニーは少なくとも1500時間を費やし、様々なパーツサプライヤーに約2万ポンドを支払った。なかでもベントレーのスペシャリストであるファインズ・レストレーションへの支払いは約1万1000ポンドに上る。ケーブルやブッシュ、マウント、ガスケット、注油プラグや例のエグゾーストシステムなど、取り寄せたパーツは数多い。

はたしてこれだけの作業を施した今でも"オリジナル"と
呼べるのだろうか。結論をいえば、本来の機能を果たせる状態としては、これ以上ないほどオリジナルだといっていいだろう。交換したのは大半が消耗品か安全性に関わる部品かその両方だ。たしかに、点検のために分解したコンポーネントも多いが、こうした車が通常受けるメンテナンスの範囲を越えるものではない。DLO 936は、新車だった1937年以来、構造上も外見上も実質的には変わっていないのだ。私にとってはそれで十分"オリジナル"である。きっとアラン・ウィンも同意してくれるはずだ。

「定められたインターバルでヘッドを増し締めし、オイル交
換する」という指示を守っているだけに、ベントレーはその走りも素晴らしい。腕木式の方向指示器はきちんと上下するし、走行中もガタつきはなく、後部座席は包み込まれるように心地いい。少し運転させてもらうと、非常にメカニカルな感触で正確に変速できることが分かった。ギアレバーは右側にあり、細く切られたゲートに右向きのバネを内蔵。シンクロメッシュは3速とトップのみに搭載する。乗り込む際にギアレバーが邪魔になるので、後ろにスライドさせたシートを元の位置に戻すメモリー機構が付いているのだ。歩くような速度を過ぎると、ステアリングは予想以上に軽くなり、正確に操縦できる。全体の見事な一体感は、走行距離が極めて少ない車ならではだ。



レブカウンターの目盛りは5000rpmまでで、レッドラインは4500rpmと、1930年代のベントレーにしてはかなり高めだ。スポーツエグゾーストのレバーを引くと、当時の広告に謳われた「静粛なスポーツカー」が、打って変わって"賑やか"になる。個人的には(当時としては)静粛なモードのほうが好きだ。トルクは期待に違わずたっぷりある。30mphを過ぎるとブレーキのサーボが利き始め、ペダルに対する反応が大幅に鋭くなった。すべてが申し分なく機能している。

今度はアンソニーの運転で、A55の旧道をゆっくりドライブした。私は後部座席で快適なソファに身を委ねた。ベントレーはなだらかな起伏やカーブを溌剌と駆け抜けていく。新車当時もそうだったに違いない。タイムトラベルは夢物語ではなかった。私はそれを実際に体験しているのだから。

もしこのベントレーがあなたのものだったらどうするだろうか。時間を飛び越えてきた貴重な1 台として大切に仕舞い込むか。それとも、本来の用途で使い、これ以上ないほど当時そのままの走りを体験するか。私なら後者だ。レストアは必要ならいつでもできる。だがオリジナルといえるのは一度だけだ。そのときを存分に堪能しなければ、もったいないじゃないか。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Simister 

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