81年で走行距離1万5000マイル│最もオリジナルのベントレー

Photography:Tim Andrew



メカニカル面はどうだろうか。「エンジンは分解せざるを得なかった。あれだけ長い間動かしていなかったから、回す勇気はなかったよ。ケン・リー(いわゆる"ダービー・ベントレー"の専門家で、このプロジェクトの指南役)から、新しいピストンに交換するよう勧められた。でないとオイルを200マイルで1リットル以上食うぞってね。でも私はオリジナルを残して、シリンダー内の研磨だけ行った。シリンダーは1から6までナンバリングされていて、ヘッドにも番号が振られている。うち2本が入れ違っているんだ。最初からそうだったんだろう。1、2、3、5、4、6と並んでいる。もちろんその順番で戻したよ。次のオーナーがエンジンを分解したら、きっと私のせいにされるだろうね…」

アンソニーはエンジンに1500ポンドを費やした。うち1015ポンドは、リスツ・モーターカンパニーで新しいクラ
ンクシャフトダンパーを製作した費用だ。ロイス製のスプリング式で、減衰を行う部分の内部にキャンバス生地が重ねられており、その複製には特に手間がかかるのである。だが驚くことに、バルブスプリングは12個すべてがオリジナルのままだ。ちなみにバルブスプリングからは、1930年代当時のベントレーとオーナー、そして多くのオーナーが雇っていた運転手兼メカニックとの関係性が想像できる。

3個あるツールキットのうち2個には、スペアのバルブスプリングがすべてきれいに収納された状態で残っており、そ
れを道端で交換するのに必要な工具も揃っている。当時はそんな作業も当たり前と捉えられていたのだ。ただしベントレーも、オーナーズハンドブックの「首尾よく走行する秘訣」という章の中で、次のように釘を刺している。「オーナーは運転手に次の項目を指示してください…(「調整」の項まで省略)…どうしても必要でない限りは調整に手を加えないこと」

ツールキットのほかに、紙筒に入ったスペアの電球もある。これもオリジナルかもしれない。こうした細部も興味深いが、もっと大きな部分にも洗練された技術が隠れていることをアンソニーが教えてくれた。「シートにはメモリー機構が付いている。ダンパーもアジャスト可能だし、エグゾーストにはスポーツモードがあるんだ」。ちなみに、排気管はオリジナルの腐食が激しかったため、ステンレススチールで複製した。その固定器具を除けば、車で使われているナット、ボルト類はすべてオリジナルだ。

アンソニーが4柱リフトでベントレーを持ち上げ、前述の斬新な仕掛けを見せてくれた。排気管の途中にバイパスバル
ブがあり、車内のレバーを操作すると、最後尾のサイレンサーとテールパイプではなく、サイドから排気される仕組みだ。また、ギアボックス内のポンプでサスペンションダンパーが加圧され、ドライバーが指定した強さで乗り心地を引き締めることができる。ほかにも、車内のペダルを踏むだけで一度にグリスを注せるシャシー潤滑システムのパイプが縦横に走っているし、ギアボックス駆動のブレーキサーボ機構もある。

アンダーボディは黒かと思いきや、ダークブラウン一色だ。「半世紀分のオイルで覆われていて、きれいにするのに1日かかったよ。チップ傷や染みはマッチするブラウンのペイントで私が補修し、保護するためにマットラッカーを全体にスプレーした」とアンソニー。リーフスプリングを包むゲーターとボールジョイントも、1箇所を除いてすべてオリジナルだ。さらにはファンベルトもオリジナルだという。「取り外したときは硬くなっていたけれど、柔らかくなるまで2日間エンジンオイルに浸したんだ。今は問題ないよ」

アンソニーはファイナルドライブを高めのものに交換した。クラッチを交換したのは、エンジェル氏が破損していたからだ。まだ運転に慣れていない頃に壊したのかもしれない。だが、ブレーキにはオリジナルのライニングが残っている。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Simister 

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