ベルト―ネの貴重な遺産の数々が眠る建物に潜入

ベルトーネ最後の遺産(Photography:Max Serra)



こうしてベルトーネは終焉を迎えた。しかしながらひとつ、グループ内で生き残っていたものがある。ベルトーネ・スティーレである。トリノの裁判所がこの件について閉廷した2013年以来、ずっと活動を停止した状態にあった同社は、今回、金になりそうなものならどんなものでもかき集め、財源確保の足がかりを作ろうとしたのである。

そんななか、2018年初頭、イタリアでオークション・ハウスを営む年配の男、アステ・ボラッフィは彼にとって初めてのクラシックカーの販売を5月に開こうと準備していた。私は彼からカプリエの建物にいっしょに行ってみないかとの誘いを受け、底冷えのする真冬のある日、ベルトーネの建物に足を踏み入れた。放置されてはいるけれど、よく手入れされている建物に入っていくと、ベルトーネがデザインした中でもっとも重要な車たちの1/10スケールの模型が私の目に飛び込んできた。1994年に数え切れないほどの地上スピード記録を樹立したZ.E.R.や、カウンタックの初期モデル、そしてミウラ、フィアット・ディーノ・クーペ、ストラトスといった顔ぶれである。少し離れたところにヌッチオ・ベルトーネの部屋があり、そこは彼が1997年にやってきたままの状態に保たれていた。そのあと回廊の端まで回ると、そこはベルトーネ・ミュージアムとして使われていた場所だった。

ここで私はヌッチオが仕立てたフェラーリ430を発見した。それは2012年にモンテレーで開かれたコンコルソ・イタリアーノで見た車そのものだった。2010年アルファ・ロメオ・パンディオンやショーカー・ベースの8Cコンペティツィオーネもあった。木製とグラスファイバーのフルスケールモデルは、ひとつがヌッチオ、もうひとつはマンタイドだった。マンタイドとは2009年に作られたシボレー・コルヴェットをベースにしたワンオフモデルである。プロトタイプを作るためにベース車として使われ、分解の準備が進められた新型のBMW Z3Mの姿もあった。だがまだ車として機能できる状態にあり、プロジェクトは進まなかったようだ。


1階に降りてみると、1/10や1/5のスタイリングモデルではあるが、1970年代初期の会社創世期から連綿と作り続けられてきたベルトーネの作品が何十台も置かれていた。実物大のトラックのキャビンがあったり、イタリアの弾丸列車、フレッシアローザは1/10スケールで置かれていた。もちろん主役は車である。ゼロやシビロ、複数台のストラトスのほか、ミウラはもちろんのことそれ以降にリリースされたランボルギーニ各モデルの試作車が、少なくとも1台は必ずあった。BMW、シュコダ、シトロエン、タタ、アストンマーティン、フィアット、アルファロメオ、それにフェラーリなどもよき構成要素となっていた。ちょうど日差しを受けていた1/5スケールのアルファ・ロメオ・カングーロはまるで後光が差しているかのようで、私は思わずその姿に立ちすくんでしまった。

地下に移ると、いく列も並んだグレーの金属棚におびただしい数のアーカイブが収められていた。オープン棚には模型やパーツのほかに、模型に至る前段階の、検討用モックアップの類いも並べられていた。必要なときにいつでも製品化できるようにと、準備を整えていたようだ。全体の半分ほどが空き箱で覆われていたランボルギーニのエンジンもあった。おそらくエスパーダ用と思われるフロント搭載のギアボックス付きV12である。ランチア・ストラトス用のウィンドシールドとそのフレームも積み重なった状態で置かれていた。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Massimo Delbo Photography:Max Serra

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