魂を揺さぶる「オモロガート」の魅力│3台のフェラーリが生んだ名車を振り返る

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私が250 GTOのステアリングを握る機会を得たのは、モントレー・オートウィークを2度目に訪れたときだ。優に10年以上前のことだから、まだ推定価格も1000万ドルだった。おかげで私は公道を走ることができた。カリフォルニアのカーメル・バレーからラグナセカ・レースウェイまで、丘陵地帯を上っていくローレルズ・グレイドという道だ。かの伝説的コースで走るための足慣らしだった。
 
あのときのことを思い出すと、今でもゾクゾクする。私の心に焼き付き、存在の根底に刷り込まれるような生々しい体験だった。あれほど心を奪う車は、あとにも先にもドライブしたことがない。もっとも、道による演出もあっただろう。素晴らしいS字コーナーが続く山道で、焼けつくような壮大な渓谷を眼下に望みながら、海抜1200フィート(約366m)まで上っていく。ガードレールの脇は、直角に400 フィート(約122m)も落ち込む崖だ。車と同様、しびれるロケーションだった。
 
一分の隙もなくぴったりとフィットしたボディの下に潜むのは、リッターあたり100bhpを発する1気筒あたり250cc、6キャブレターのV12 だ。これが5 段ギアボックスを通して、ドライバーシートすぐ後方のリジッドアクスルを駆動する。250GTOは、新機軸なしで素晴らしい性能を実現した車だ。250 テスタロッサ・エンジンにSWBの駆動系を組み合わせたと考えればいい。すべては実証済みだった。連戦連勝だったのは、揺るぎない信頼性に溢れるパワーを組み合わせて、強力なマシンを造り上げたからだ。だが、ドアを開けてみると紙のように軽く、非常に繊細な車でもあることが感じられた。
 
車は一切の躊躇なく発進し、見る見る加速していく。大量の空気を飲み込むインテークのバリトンと、さらに低く野太いエグゾーストノートが轟く。その波動は体を震わせ、ステアリングの振動で手の平や指先はビリビリと痺れ、腕や脚はサスペンションにもてあそばれる。おそろしく正直な車で、何ひとつ隠そうとしない。まるで、車と体の接点すべてが配線でつながって、車の深奥に潜む挙動まで魂に直接伝えてくるような感じなのである。たとえレースでの勝利数があれほど多くなかったとしても、250 GTOは伝説の車として君臨していたに違いない。(Words: Glen Waddington)
 

Words: Steve Sutcliffe

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