BRM V16エンジン|モーターレーシングの愛されるべき厄介者が甦った

Photography: Paul Harmer



V16はちょっとした不注意でも状態が微妙に変化するから、単に複雑なものを処理するというだけでは片付かない。2分割のシャフトがクランクケースの底を前後方向に走り、フロントの遠心式スーパーチャージャーとリアのフライホイール、およびオイルポンプとウォーターポンプを駆動している。一対のギアドライブはクランクシャフトスピードの7/8 回転で駆動する2 本のクロスシャフトを介して過給圧を4:1 に上げる。つまりタイミングライトでイグニッションタイミングを計ることはできない。遠心式スーパーチャージャーは、エンジンが通常は一定速度で回る航空機では問題はないが、レーシングカーではそうはいかず、このV16をスタートさせるにはメーター上で7000rpm が必要であり、信じられないほどコントロールが難しい。スタート時点では約250bhpを発生していて、回転の上昇に伴い急激にブーストが上がり、出力は1000rpm 毎に約100bhp増える。最高出力は1万2000rpmで600bhp周辺だった。だが、考えてみてほしい、もしたとえば9000rpmで、そして比較的おとなしい400bhpを発していても、ホイールスピンしたら何が起こるかを。突然ブーストが上昇して回転が上げれば、薄いダンロップ・タイヤに残っていたどんなグリップも瞬時になくなってしまうだろう。

V16エンジンについて、リック・ホールはこう語っている。「かなり使い込まれて磨耗していた。クランクケースの外に排気が漏れていて、マグネトーにも問題があった。私は本当に何かが壊れて困ったことになる前にリビルドが必要だと思っているが、そこへ到達する前に、さらに面倒なことを見つけてしまうかもしれない。さらに、スクラップになる可能性も否定できないと彼らに言ったのだ」

レーシングエンジンにとっては、寿命は設計上あまり重要なファクターではない。最大の問題点は鋳造部品の腐食だった。シリンダーボアは最悪で、固着してまったく動かなかった。オイルは乳化していて、どこかから水が混入したのは明らかだった。さらにヘッドの一つが腐食して貫通していた。実際のところバラすのは比較的容易だった。ヘッドは固着していたので、道具を作って引き抜いた。

「P15はレストアラーでありレーシングドライバーでもあるトニー・メリックが1981年のBRMオークションで購入し、レストアしたことがあった。だが、ここ30年間以上は何も手がつけられていなかった。ピストンはおそらく1950年のシルバーストン以来そのまま、コンロッドは確実にそのままだ。なぜならナンバーが振られているからだ」

私たちは数年にわたって、これらのために3基の完全なエンジンを含むたくさんのパーツを造った」とホールはさりげなくいう。したがってパーツには問題はなかった。吸入が2個、吐出が2個のドライサンプ式オイルポンプのための新しいギアもそうだ。そのほか、新しいピストン、リング、ライナー、バルブ、バルブガイド、およびいくつかのフィンガーフォロワーが必要だった。内燃機関では一般的に最も熱を帯びるバルブシートから若干離す、ラットトラップ型バルブスプリングも新しく作られなければならなかった。ホールは更に続けた。「ウォーターポンプは腐食していたのでアルミのインサートを作った。それはクランクケースの外側にあったが、内側にある油圧ポンプの一部だった。一旦穴を開けて作業してから蓋で塞ぐことによって、最後の手段としての溶接に頼ることなくヘッドを救うことができた。他の問題点はヘッドスタッドボルトだった。何本かは引き抜くことができたので、ネジ山を復元するためにスティール製インサートコイルを作らなければならなかった。しかしこの工程によって、周辺がとても弱くなってしまうてめ、作業できる範囲は狭まった」

ピストンが極小だとはいえ、V16 なのでブロックはかなり長くなり、作業時には曲がることが避けられない。通常のエンジンスタンド上で作業する場合は、締めるときクランクシャフトを挟むことになってしまうので、ベンチに移して作業するか、特別製の台で作業する。一筋縄で行くことなどひとつもない。

V16の複雑な設計は、ブロックから立ち上がってカムシャフトを駆動し、さらに下がってクロスシャフトを動かすという、エンジンの前後中央に挟まれたセントラルドライブギアに代表されるだろう。

「幸運なことにクランクシャフトはOKだった。135°Vアングルは"エッグカップ"サイズのピストンとローラーベアリングがカムシャフトに組まれるが、これは6個のプレーンベアリングが保持するという、いたって普通の設計だった」

すべてを元に戻すには、単に4気筒エンジンを組む時の4倍の手間がかかるだけではなく、忍耐が必要だった。コンロッドのビッグエンドは、ボア径より大きいので、まず最初にピストンを下からライナーに合わせ、しかるのちにライナーをブロックに入れるがそれらのベースにOリング・シールを入れるのを忘れてはいけない。

ヘッドの組み付けは楽しい。それらには通常のガスケットは使用せず代わりにアトラス・ガスケット社のクーパーズリングを、燃焼圧をシールするためのOリングとラバーシール、1/16インチのガコ・ウエスタン社製のコードとともにヘッドの周囲の表面の少し内側の溝にセットする。リングが完全にシーリングできるよう圧を加えるため、ライナーはデッキ面からきっちりの量だけ突き出る必要がある。バルブガイドとウォータージャケットはクーラントがスタッド周辺に上がらないよう、ヘッドスタッドよりさらに下にOリングをかます。カムシャフトのフロントエンドに備えられたマグネトーマウントにさえシーリングは必要だった。リック・ホールは各バンクのヘッドには、30から40個のシールがあると見ている。幸いなことに、スーパーチャージャー自体については新しいベアリングとリングシールを組み込むだけで済んだ。「私たちは、30年前にトニー・メリックがレストアをしたとき、彼のために新しく作っていたので、それほど傷んではいませんでしたが、古いブレードはすべてすり減っていた」

ホール& ホールはエンジンテストで8400rpmですら485bhpを発生することを確認できた。

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編集翻訳:小石原耕作(Ursus Page Makers) Transcreation: Kosaku KOISHIHARA (Ursus Page Makers) Words: Paul Hardiman 

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