フォルクスワーゲン タイプ2|レトロデザインで人気の「ワーゲンバス」の歴史を振り返る

フォルクスワーゲン タイプ2



ネックは側方からの積み降ろし
1949年には最初のプロトタイプが完成。だが、ドイツの荒れ果てた道路でテストしたところ、文字通りシャシーが真っ二つに折れてしまった。これを受け、すぐに新しいプロトタイプが設計される。ビートルのプラットフォームに代えて、特製のラダーフレームにモノコックのボディシェルを組み合わせたものだ。今度はニーダーザクセン州の悪路も見事に走破した。こうして、VW社長ハインリッヒ・ノルトホフが1949年末に生産開始を指示し、1950年に最初のタイプ2が市場に登場することとなった。

ビートルの水平対向4気筒エンジンとトランスミッションを流用したT1だが、サスペンションには変更が加えられた。ロードクリアランスを確保するため、軍用車のキューベルワーゲンで使ったハブリダクションギアを導入したのである。また、キャブフォワードの運転席は、後部に搭載された重いエンジンとトランスミッションに対してバランスを取る役割も果たしている。装備はごく基本的なもので、後部の窓もバンパーもなく、サイド後方にスエージ加工の換気用ルーバーがあるだけだった。

T1は、荷物運搬用のバン、ピックアップ、8席の小型バス、救急車という4種類のボディが製造された。また、ルーフに並んだ窓が特徴的な高級仕様のバス"サンバ"も存在した。不思議なことにVWは2003年まで自社ではキャンピングカーを造らず、ウェストファリア社やイギリスのデヴォン社などがライセンス生産をしている。

さて、ノルトホフはT1の発表にあたって、最高速76km/h、燃費は13.3km/L、登坂能力は22%だと豪語。タイプ2はたちまち大人気となり、ハノーファーに新たな工場を建設しなければならないほどであった。その後、1954年に右ハンドル仕様がイギリスで発売。同年4月に『Commercial Motor』誌が668ポンドのタイプ2をテストしている。テスト結果は目覚ましく、積載量762kgでも燃費は11.5km/Lで、ケーターハムにある斜度25%のサコムヒルを止まることなく登り切り、静止状態から22.7秒で17.0km/Lに達した。テストを担当したローレンス・J・コットンは強い感銘を受けている。

戦後の建設ブームもあって、イギリスでの売れ行きは好調だった。1955年、VWは冷却機構を改良してパワーアップした新バージョンを導入。ルーフが伸びて、フロントガラスの上に張り出す特徴的な形になった。『CommercialMotor』誌が1960年12月に、621ポンドの15窓仕様T1マーク2をテスト。「10年を経ても、なお勝者!」という見出しを掲げている。テストしたアンソニー・エリスは、チルターン丘陵のバイソンヒルを難なく登り切ったT1についてこう書いた。「好燃費な点を除いて、細部については特に際立った点はないものの、全体としては非常に職人気質の車と言える」

タイプ2成功の鍵となったリアエンジンは、同時にアキレス腱でもあった。荷の積み降ろしが側面からに限られるため、荷台を低くできるが、荷室の長さは短くなる。コンパクトで機動性があり、経済的でもあったT1は、都会で使う運搬車としてはもってこいであったが、荷台が小さ過ぎ、徐々にイメージは古くさいものになっていった。1965年には、フォードが画期的なバン、トランジットを発表。こちらはモダンなV4エンジンを搭載、荷台面積を広げるためにトレッドを広くし、オルタネーターによって電気系統も安定していた。対してタイプ2は、あいかわらず6Vの低電圧であったのだ。

1967年に、"ベイウィンドウ(出窓)"の愛称をもつT2が誕生した。ボディが長くなり、開口部が広がって4ヶ所に。二重構造でより頑強になり、新エンジンでパワーもアップ、ハンドリングが改良され、最高速度も向上するなど細部は改良されたものの、横から荷物を積み込む基本的な構造はそのままだった。それでもT2はアウトドア派などから大歓迎を受ける。また、この頃にはアメリカでも愛らしいタイプ2が広く愛されるようになっていた。ギルバート・シェルトンによる1960年代のアンダーグラウンド・コミック『Fabulous Furry Freak Brothers』では、ドラッグでいかれた怠け者の3人兄弟が、"スプリッティ"の愛称で親しまれたT1を愛用している。"ベイウィンドウ"は、390万台というタイプ2最大のベストセラーとなった。1979年にヨーロッパでの生産は終了したが、場所をブラジルに移し、なんと2013年12月まで生産が続いたのである。

だが、市場は最大積載量を重視する方向へと進んでいた。これを受けてVWは大容量バンのLTを1975年に発表。また、タイプ2の新型であるT3"ウェッジ"が1979年に登場した。T3はさらに大きくなり、シルエットも時代に合わせて角張ったものに。ステアリングがラック・ピニオン形式になり、ボディシェルはより大きく強くなった。また、後期には水冷式のディーゼルとガソリンエンジンが導入されている。だが、ここでもリアエンジン、キャブフォワードの組み合わせは変わらなかった。VWは乗用車部門でも前輪駆動をなかなか導入できずにいたのである。

T3はほぼあらゆる面で改良されていたものの、ライバルはさらに先行していた。ルノーが1980年に発表した前輪駆動のバン、トラフィックとマスターは、先例がないほどの大容量を誇り、荷台も低く、横と後方からの積載が可能だった。VWは、T3に幅広いバラエティーを揃えることでこれに対抗。四輪駆動バージョンをはじめとして、ハイルーフ、ピックアップ、ダブルキャブピックアップなどが登場した。T3が誇るリアエンジンならではのトラクションは、市場の需要に見事に応えるものだった。また、小型バスのカラベルによって高級市場にも進出を果たした。

1986年11月に『Commercial Motor』誌が T3をテストしている。1万1214ポンドのダブルキャブピックアップ仕様、四輪駆動の"シンクロ"で、テストを担当したのはアンドリュー・イングリッシュ、つまり私だ。青いT3は高速道路M20のルータムヒルを113km/hで駆け上がり、11.9km/Lの燃費と素晴らしい俊敏性を見せた。ただ、カーブでスロットルペダルを戻すと予測しにくい挙動をする、との所感も書いた。実際、笑えるくらい横方向に流れやすい車だった。

私はこのT3以外にも、『Commercial Motor』誌で長年にわたって数々のVWバンをテストしたが、最も大きな変化を感じたのが、1990年登場のT4だった。フロントエンジン、前輪駆動になった最初のトランスポーターである。改良され、磨き抜かれて、より安全な多目的のバンになっていたのは間違いない。だが、一つの時代の終わりを告げるものであり、人を引きつけるカリスマ性はなかった。

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編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE  原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Andrew English Photography: Jamie Lipman

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