ポルシェ史上もっとも美しいとも評される「カレラGTS 904/6」の魅力とは?

1965年ポルシェ・カレラGTS 904/6(Photography:Charlie Magee)



誕生の背景
カレラGTSについて、ブッツィーは自動車歴史家のカール・ルドヴィクセンに次のように語っている。

「あれは私が気に入っている作品です。なにしろ私ひとりで作業しましたし、何かを変える必要もなければ新しく仕立て直す必要もなかったのです。デザインして、それですべて終了です。ただし、与えられた時間はとても短いものでしたが…」

新たに開発することになったレーシングカーは、翌シーズンのデビューが決まっていたため、開発はすべて素早く、そして正確に行うというプレッシャーがつきまとった。1962年から63年の冬にかけて、ポルシェは新型のGTレーサーとそのロードカー・バージョンを製作することを社内で決定。そしてこれは驚くべき大成功を収めたのである。

ポルシェのテクニカルディレクターを務めていたハンス・トモラは、カレラGTSにはレース用にチューンされた901エンジンのツイン・プラグ仕様フラット6を搭載すべきだと主張していた。901はほどなく登場するスポーツカーのために開発中のユニットだったが、時間切れのためそのレース用がGTSに正式採用されることはかなわなかった。そこでフール・マンが手がけた4カム、2リッターのフラット4エンジンのタイプ587が搭載されることが決まる。「史上もっとも複雑なフラット4」との別名を持つエンジンだったが、356カレラ2に搭載されてすでに高い実績を誇っていたのだ。

このフラット4エンジンはハンス・メッツガーによってチューニングされ、7200rpmで180bhpを生み出すタイプ587/3へと発展する。そのロードカー・バージョンでは、公道走行が認められたエグゾースト系を装着し、155bhpというより穏やかな最高出力を得ていた。そして、このエンジンが904という"俗称"を生み出すきっかけとなったのである。ただし、プジョーが「3桁数字の間にゼロを挟む」モデル名を商標登録していたためにポルシェが901を911と改めたのと同様で、904の名も公式には使えなかったのだが。

革新的な904はポルシェとして初めてラダー・フレームを採用したモデルでもある。量産車にとってスペースフレーム構造はあまりにも高価だったのだ。このフレームに架装されたグラスファイバー製ボディは、ドイツ・シュパイアーのハインケル航空機製造会社が製造を担当した。ボディをスチール製シャシーに直接、固定することで高い剛性を得ており、結果的に従来からのスペースフレーム構造よりも丈夫なボディができあがった。904は軽量なことでも知られており、車重はわずか675kgで、厚さ2mmのFRP製ボディは85kgしかなかった。シャークノーズは空気抵抗の低減にも役立っていたはずで、0.34のCD値は当時としてはかなり小さく、160mph(約260km/h)の最高速度と、0-60mph(0-96km/h)が5.5秒という加速性能を実現していた。

4カム・エンジンはミドシップに搭載されるいっぽう、ダブルウィッシュボーン式のフロントサスペンションはF1マシンのタイプ804から移植されたもので、コイルスプリングとダンパーが同軸とされたほか、アンチロールバーが取り付けられていた。また、ステアリング・ギアボックスはZF製のラック・ピニオン式で、そのセットアップは901/911を流用したものだった。リアサスペンションはそれまでのポルシェに多く見られたスイングアクスル式と決別し、コイルスプリングと2組のウィッシュボーンを採用。これにラジアスロッドとアンチロールバーを組み合わせるとともに、下側のリンクの前方はフレームによって支持されていた。ブレーキは356Cに用いられていたのとよく似たATE製ディスクで、軽量なスポーツカーには充分な性能を備えていると考えられた。

904のデビューレースは1964年のセブリング12時間で、ジェントルマン・ドライバーのブリッグス・カニングハムは、プロトタイプ・クラスでの優勝と総合9位という成績を勝ち取る。続くタルガ・フローリオでは優勝と2位、7位を獲得。ニュルブルクリンクでは3位に入り、ル・マン24時間では総合7位とクラス優勝を果たす。そしてスパやランス12時間でもクラス優勝に輝いたほか、雪に覆われた1965年モンテカルロ・ラリーでも2位に入るなどの好成績を収める。それは、文字どおり"ジャイアント・キラー"というべき活躍だった。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Robert Coucher Photography:Charlie Magee

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