アストン史上、最高傑作のひとつでイタリアを旅する1週間

Photography:Matthew Howell & Stephen Archer


 
ヴァンキッシュSヴォランテのエンジンルームに収まる自然吸気V12 エンジンは、ベースであるヴァンキッシュ用をベースに、吸気系の見直しとECUのマッピングを変更したことによって最高出力は565bhpから595bhp へ、最大トルクは5500rpmで465lb-ft へとパワーアップを果たしている。組み合わせられる8 段AT(タッチトロニックIII )も設定変更され、変速スピードが改善している。
 
悪天候で知られるイギリスながら、コモ湖へ向けて出発する日は、天気の神様は我々に微笑みかけてくれているかような快晴に恵まれた。ユーロトンネルを抜け、巨大な風力発電タービンが立ち並ぶピカルディを抜けるフランスの高速道路をひた走る。ここは大空と一面に地平線が広がる雄大な場所であり、ガツガツ走る必要もあるまい。ヴィミーリッジに立ち寄って、100年前にカナダ軍がドイツ帝国軍を打ち破った地で歴史に浸ってみた。

ヴァンキッシュSヴォランテのエンジンをかけると、居合わせた小学生と思しきグループの50ほどの頭が一斉にこちらを向いた。ヴァンキッシュSヴォランテは隠密行動には向いていない。
 
ヴィミーを発ち一路、今夜の宿泊先、ローマ時代から要塞の町として使われたラングルへ向けてステアリングを向ける。高速道路では85mphにクルーズコントロールをセットしてみると、タコメーターは2000rpmを指していた。レッドゾーンは7000rpmゆえに理論上はどれくらい出るか、などと思いを巡らせて、ひとり苦笑いしてしまった。道中、ルーフは閉じた状態で走ったが、ソフトトップであることを忘れさせるほどの静粛性が保たれている。クルーズコントロールを用いて低回転域で巡航しているかぎり、iPhoneカープレイで音楽を楽しみながら寛ぎに満ちた移動となった。
 
航続距離の長さと使い切れんばかりのパワーは、とにかく楽で長距離移動にはうってつけだ。"無理"する場面がないゆえに、ドライバーやパッセンジャーを疲れさせることもない。初日に走った450 マイルは拍子抜けするほど容易くこなすことができた。ホテルに到着するやいなや、ディナーを楽しむゲストが筆者のほうへ目を向けた。正確にはヴァンキッシュSヴォランテのエグゾーストノート、そして車両の美しさに目を奪われたのだろう。


 
翌朝、ルーフを開け放ち、交通量の少ない一般道をミュルーズへ向けて走らせることにした。AT で「D」を選択して走らせると様々な走行シーンで変速するが、シフトショックはほとんど感じさせないスムーズな走りを満喫できる。スポーツモードを選択するとスロットルの反応はよりシャープになり、エグゾーストノートは1オクターブ上の音色を奏でるようにすら感じる。カーボンセラミック・ブレーキの食いつきも積極的になるし、追い越しの際にパドルシフトを操作すれば即座にMTモードになる。600bhp近いパワーをドライバーの意のままに操る醍醐味たるや、快感の一言に尽きる。
 
アクセルペダルを踏み込むと、エグゾースト・フラップが開きヴァンキッシュSはほとんど"ストレート"マフラー状態になる。大排気量12気筒エンジンはドラマチックなまでに力強く遠吠えし、溢れんばかりのトルクで追い越し車線を駆け抜ける。ドライバーにもたらす興奮度合いは美しいエグゾーストのボリューム、加速によってもたらされるGフォースに比例する。アクセルペダルの踏み込みを緩めると、B&O の高性能サウンドシステムから流れる音楽が聞こえてくる。それこそジキルとハイドほど、二面性を持ち合わせた車なのである。裏を返せば、ヴァンキッシュSヴォランテは様々な場面で活躍できるとも解釈できる。

編集翻訳:古賀 貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA(carkingdom) Words:Stephen Archer 

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