感性領域に達するシトロエンの乗り心地

PEUGEOT CITROEN JAPON

走り出す前から始まる、シトロエンにとってもっとも大切な"乗り心地"。回りに流されない、乗り心地の快適性にこだわり続ける姿勢は新たな個性といえよう。

シトロエンの乗り味は、走り出す前から始まっていると思っている。キャビンに乗り込むと、高めに座るシートに対しインパネやウエストラインは低く、ウインドスクリーンは遠くにある。この空間づくりが緊張感をほぐし、自分の部屋にいるような親しみやすさをもたらしてくれる。
 
それは現行C3やグランドC4スペースツアラーでも感じることができるし、筆者が昔所有していたCX やBXもそうだった。この2 台は全高が1400mm 以下と、実用車としてはかなり低かったのに、シートは高めにセットしてあった。大きな窓とソフトな乗り心地が掛け合わさって、雲に乗っているような開放感を楽しみながらドライブすることができた。
 
エンジンをかけて、C3ではセンターコンソール、グランドC4スペースツアラーではステアリングの向こうから斜めに生えるセレクターレバーをDレンジに入れ、アクセルペダルを踏んで走り出す。今のシトロエンはガソリン、ディーゼルともにターボ付きということもあり、低回転から豊かなトルクを発揮し、不満のない加速を提供してくれる。 

昔のシトロエンはというと、小排気量車は低回転域でのトルクが細く、各ギアで高回転まで引っ張っての走りが求められたが、これは当時のフランス製大衆車に共通していたこと。逆に2リッター以上の大型車では、全域での扱いやすさを重視していた。60年以上前から自動変速機を用いていたことも、その現れではないかと考えている。



 
逆に言えば吹け上がりやレスポンスを重視したエンジンは少ない。必要以上に鋭い動きは長旅での快適性をスポイルすると知っているからだろう。
 
トランスミッションのギア比を高めにすることが多いのもシトロエンの特徴だ。たとえばグランドC4スペースツアラーを、同じクラスのプジョー5008を比較すると、タイヤはSUVのプジョーのほうが少し大径で、トランスミッションのギア比は同じものの、最終減速比はシトロエンのほうがかなり高く、同じ速度でのエンジン回転数は低めになっている。
 
リラックスした気持ちでロングランを楽しんでほしいというシトロエンのメッセージが、細かいチューニングの違いにも現れている。 言い方を変えれば、多くのシトロエンは、パワートレインの主張はあまり強くはなかった。快適な移動を支える名脇役という印象もあった。とりもなおさず、もっとも大事なのは乗り心地だと考えているからだろう。
 
シトロエンの乗り心地というとやはり、ハイドロニューマチックやハイドラクティブといった、「空気と水のサスペンション」が思い浮かぶ。ここではハイドロと総称させていただくが、さまざまなシトロエンに乗ってきて感じるのは、ハイドロは快適な移動のための手段のひとつであり、それ自体を採用することが目的ではなかったということだ。
 
つまり金属バネのシトロエンもハイドロも目指す方向は一致している。素材や調理は違っても全体から伝わる雰囲気は共通している名門レストランのようなものだ。
 
その乗り心地は時代とともに進化している。昔は現在の基準で言えばウルトラソフトと言いたくなるほど柔らかかった反面、常にフワ~ンと揺れていた。船に乗っているようだと違和感を覚えた人もいたようだが、筆者はハンモックに身を寄せているような気分に浸っていた。
 
逆に段差や継ぎ目はわりと正直にガツンと伝えてきた。このあたりの処理をヒタヒタッと絶妙にいなす猫足のプジョーとは対照的だった。でもそれが気にならなかったのは、シートが第二のサスペンションとなっていたからだ。足には細かい振動が伝わってくるのに、ひざから上は優しく包まれている。シートが鋭いショックを巧みに吸収している様子が分かった。
 
それに比べれば最新のシトロエンは、段差や継ぎ目の処理はかなり上手になった。サスペンションやシートは、依然としてライバルと比べればかなりソフトだが、コーナーでのロールは抑えられている。快適性のバランスが高まった。でも徹底的に揺れを抑え込んでいる雰囲気はない。むしろ柳に風と受け流している印象を受ける。
 
シトロエンはもちろん、技術的な開発も行なっているだろうが、それとともに1/fゆらぎ、つまり木漏れ日の光や波の音が心地いいと感じるという感性領域の研究もしていて、人間が気持ちいいと感じる乗り心地に仕立て上げているのではないかと思っている。
 
ハンドリングでもシトロエンは特徴がある。いまから85年も前に前輪駆動車を作りはじめ、以来それがスタンダードになっているから、後輪駆動車っぽい性格にしようなどという気持ちは微塵もない。前2輪で操舵と駆動をしっかり担当し、キャビンを導いていく。それが高速道路や雨の日をはじめ、あらゆるシーンで安心感につながる。
 
他の多くのブランドがスポーティさを追い求める昨今だからこそ、快適性にこだわり続ける姿勢はシトロエンの新たな個性になっていると感じる。今後、車の自動化が進めば、快適性はさらに重要な要素になる。

シトロエンの考え方はさらに価値あるものになっていくだろう。

文:森口将之 Words: Masayuki MORIGUCHI

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