フェラーリが生んだ歴代スーパーカーを一気に試乗│F40 LM、F50、エンツォにラ フェラーリ

Photography:Matthew Howell


 
理論上、エンツォはF50の進化形だが、隣に並べてみるとエイリアンの宇宙船に見える
。ふっくらとした菱形の中央部を、タイヤが収まる左右のポンツーンで挟んだ、実に3次元的なデザインである。バタフライドアを引き上げてみると、コクピットもエイリアン的だ。レゴで曲線を作ろうとしたかのように、不揃いのパーツが複雑に組み合わされ、ボタンやメーターやスイッチが点在する。シフトレバーはなく、カーボンファイバー製のパドルとオートマチック単板クラッチが変速を担う。ステアリングとブレーキにはアシストが付き、ASR(トラクションコントロール)も装備した。ステアリングにはモードごとに色分けされたボタンが並ぶ。これをまとめたのが“マネッティーノ”と呼ばれるトグルスイッチで、今やフェラーリの標準的な装備となった。
 
新型の6リッター“F140”V12が投入されたのもエンツォからだ。実に驚くべきエンジンで、F50の
V12よりスムーズで、低音が効き、音楽的である。パワーも倍増した印象を受ける。その証拠に、スロットルペダルを初めて踏み込んだ瞬間にテールが左右に振れて、私はぎくりとした。最高出力は660bhpで、最高トルク657Nm(67kgm)は5500rpmで発生するが、ごく低回転でもそれに近いトルクを発揮するのだろう。ASRは“あると便利”ではなく、不可欠の装備なのだ。F40は追い込むとようやく噛みつくが、エンツォはV12のパワーがあまりに強大なので、太いブリヂストンでも勝ち目がないのである。
 


このV12にはまだまだ底力がありそうだが、それを確かめる前にステアリングに慣れな
ければ。アシスト付きで扱いやすいが、少々フィールに欠ける。変速も、ダウンシフトは見事に回転に合わせてくれるが、アップシフトはまどろっこしい。かといってリフトする手間を惜しむと強烈すぎる。F50と比べると、途方もないパフォーマンスと引き換えに多くのものを失ったと感じてしまう。
 
だが、途方もないのは確かだ。アイドリング近くの低回転域から8000rpmまでの旅は感
動的ですらある。V12のキャラクターとトーンが、やわらいだかと思うと盛り上がり、またやわらぐと、これまで以上に力強く回転を上げ始め、6000rpmに達すると、アフターバーナー装置が起動したかのようだ。F50のV12も最後の2000rpmは尋常ではなかったが、エンツォは次元が違う(またしても下着の換えが必要だ)。あとはバンプに目を光らせる必要がある。乗り心地は抜群なのだが、長いノーズはこすると痛めやすい。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Barker 

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