マセラティ・グラントゥーリズモで、知的好奇心が満たされる旅へ

KenTAKAYANAGI



古代の人々が囲んだ火に思いを馳せる緩やかで贅沢な時間


ところで『THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田』が位置する御代田地区は、古くは縄文人が住んでいた土地で、土器の出土も多く、縄文ミュージアムが町内に構えられているほど。オーベルジュの本館からヴィラまで、建物内を彩るアート作品には縄文モチーフのものが少なくないのは、そのためだ。よって「火」そのものがこのグラン・オーベルジュでは大切なアイデンティティとなっている。とくに冬季はメインエントランスの暖炉に火を入れ、来訪者を迎えている。炎を眺めて過ごす時間は、ただ暖をとるだけでなく、人の奥底にある感覚を呼び覚ますプリミティブな体験でもある。

エントランスロビーには23:00までホテルスタッフにより焚き火が焚かれる。夕食の後、ここで長らく語り明かすゲストもいらっしゃるそう。

もうひとつ、9月に刷新された『TAKIBIラウンジ』も、縄文ライトモチーフの施設といえる。これは南アフリカのグランピングのテントを製造するブランドが手がけたビスポークによる巨大テントをメインスペースとしつつ、周囲の芝生に焚火台を並べた、屋外のラウンジスペースだ。宿泊したゲストの多くが、キッチンカーからサーブされるドリンクを手に、食事前に火を囲んでアペリティフの時間を過ごすスポットになっているという。焚火台の炎を眺めつつ、視線を交わすことは、リラックスすると同時に食卓の楽しみを増幅させる準備でもある。

一方で夕食までの時間を『TAKIBIラウンジ』で過ごすことも一興。ほぼすべてのゲストが立ち寄る人気エリア。

一方で、そこに隣接するアネックスは、ウェルビーイング体験に特化した施設でもある。蔦屋書店が監修した1Fのライブラリカフェには、インテリジェンスを巡る旅にふさわしい書として、大江健三郎の文学作品からジェフ・ウォールの写真集、マイルス・デイヴィスの自伝などが並ぶ。他にもフランス料理やイタリア料理にまつわるもの、植物図鑑の名著、そして縄文文化に関する本など、蔵書は多彩だ。同じく1Fのサウンドルームには、デノンのターンテーブルDP-3000F/マッキントッシュのMA252インテグレーテッドアンプ/ハーヴェスのHLコンパクトスピーカーという、オーディオシステムが用意され、ハイグレードな音を楽しむこともできる。

巨大な写真集が鎮座するアネックス1階には知的好奇心を刺激する蔵書が。

縄文文化にまつわる美しい装丁の図鑑から、S.マックイーンの写真集、大江健三郎の小説まで、その興味の範囲は広い。

加えて『THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田』では、9棟を数えるヴィラのうち2棟がドッグヴィラスイートとなっており、ドッグランや足洗い場が併設され、シモンズ製の犬用ベッドやおもちゃ、おやつといった愛犬家のためのアメニティが備わっている。もちろん食に定評あるひらまつらしく、愛犬用のドッグケーキやメニューも用意されているほどだ。

本館 28室、ヴィラ9棟すべて100㎡以上の広さが確保されていて、空間的にもゆとりを感じさせるつくり。今回滞在させていただいたヴィラスイート(181.7平米・テラス含)は2ベッドルームで2世代 3世代での家族利用に最適だ。

施設の外でも、『THE HIRAMATS U軽井沢 御代田』は近隣の施設と提携し、サンセット・ヨガや乗馬クラブ、冬にはスノーシューを装着してのトレッキングも提案している。

広大な敷地を使った「Table Nature(ターブル ナチュール=自然のなかのお食事)」を提唱する。散策路でベンチに腰をおろして、温かいコーヒーをいただくこともできる。

ひとつひとつの経験が、散発的に心地よいだけで終わるのではなく、有機的に絡み合いそれぞれを活かし合いながら焦点を結び、交響楽のようなハーモニーが生まれるのは、それこそラテン的な「アート・オブ・ライフ」という感覚が為しうる、力業でもある。

プリミティブと洗練が同居するからこそ心地よい


出発の前日、都内で撮影用のグラントゥーリズモをお借りした当初、その外装色「ブルー・ノビーレ」は、控えめな紺色としか映らなかった。だが街灯の下に照らされると、メタリックの大きな粒がコントラストを帯び、にわかに艶やかなボディラインが際立ってくることに気づいた。そして朝方の蒼い空が映りこむと、彩度を増して背景からおずおずと浮き上がるように存在感を増す。

場所を変えるごとに、移ろいゆく移動中の風景を、ある瞬間から次の瞬間への光を、美しく映し込むグラントゥーリズモのボディは、変化に富んでいる。ボンネットからフェンダーの峰、そして3連エアベントまで一体となった巨大なアルミパネルによる抑揚豊かでありながらクリーンな面構成は、まさしく今日的なイタリアンといえる。それはデザインだけでなく、カラー&マテリアルの選択の妙でもあるし、空力をはじめとするエンジニヤリングや生産技術の高さでもある。

新しいグラントゥーリズモのリヤデザイン。遠目に見るとシンプルなビューながら、こうして木漏れ日の下で眺めると複雑な曲線で構成されているのがよくわかる。機能を大仰に演出しないところにエレガンスが漂う。

1950年代の A6の時代に遡るような職人技、手で曲げて叩いて生み出した空力ボディの伝統を、いわばクラフトマンシップとテクノロジーが一体という原則を、マセラティのGTは新世代にも守り続けているのだ。

マセラティにしか解けない審美性と機能性の方程式の解は、内装にも見られる。ヘリンボーンをモチーフにしたシートやインテリアは一見古典的なようで、パーフォレーション加工されたレザーやエルゴノミーを磨いたデジタルインターフェイスなどは、モダンな仕立てだ。2ドアクーペながら大人が座れるほど快適な4シーターでもある。

こうした手並みの冴えは、視覚的な美しさだけでなく動的質感にも表れていた。高速道路での風切り音の少なさ、滑らかに風を切って進んでいく手応えは、パワートレインの力強さと矛盾しないどころか安心感すら覚えるほどだ。電子制御AWDながらも、ほぼ後輪駆動をデフォルトとするグラントゥーリスモで、関越自動車道や上信越道にありがちな長い登り坂を、巡航あるいは追越加速する際のさえずるような低回転域のビートには、凡百のV6エンジンやGTが到底及ばない緻密なフィールがあった。一方でアクセルをひとたび踏み込めば、重低音の咆哮は次第に艶やかなトーンを帯びて、乗り手のアドレナリンを促し続ける。

無味乾燥な移動では、得られない貴重な何か


にもかかわらず、新型グラントゥーリズモは、パフォーマンスや高級さで、絶対値や到達点の高さを誇るだけの一台ではない。フォルティシモからピアニシモ、あるいはハイライトからシャドーまで、無限の広さをもつ諧調そのものを乗り手の求めに応じて、動的にも静的にも表現してくれるところがある。だから高速道路でもワインディングでも、走りがもたらす心地よい疲れ以上に、五感がほどよく刺激され、身体も頭脳も整ってくる、そんな感慨さえ覚える。それこそA toB地点へという無味乾燥な移動では、得られない貴重な何かだ。非日常とは日常から逃げ出すことで体験できる麻薬のようなものではなく、日常と隣合わせのところから突如として心身に訪れてくる、表裏一体の感覚なのだ。強烈無比の力強く瞬発的なパフォーマンスと、アレグロでの散策による満たされた時間は、じつは地続きのもの。だからこそ旅と呼ぶにふさわしい、芳醇にして濃密な時間の流れが、グラントゥーリズモを走らせている間は約束されている。しかもその歓びは、2座ではなく4座であることで、分かち合う経験そして歓びにも繋がっている。

2023年春にオープンしたばかりの複合施設。もともとキリスト教系の私大の寮だった3500坪の土地と建物を、可能な限り活かして使用し、元の礼拝堂にはあのイートンハウスが入る。教育・アート・食に力点を置かれた新名所だ。

かくして翌朝、冒頭で述べた雪化粧の浅間山を眺めた後、中軽井沢の『KARUIZAWA COMMONGROUNDS』を訪れた。ここは軽井沢書店中軽井沢店をはじめ、カフェやインターナショナルスクール、コワーキングスペースや飲食店が、3500坪の広大な森の中に集まっている。元は私大の寮だった地をリノベ―トして、中軽井沢らしい「教育とアート、食」を一体化しする多目的施設としたのだ。しかも運営にあたってはエネルギー調達の一部を、太陽光パネルによる発電など脱炭素社会に向けた実証実験によって支えている。

看板的存在のエアストリームはエアコン完備で打ち合わせも可能、3300円/1h。

書店の2階部分はコ・ワーキングスペースとして貸し出されている。取材当日も平日だからか、大勢の利用者がいた。

施設全体のコンセプトに沿って教育、アート、食関連の書籍が並ぶ。あの蔦屋代官山店のバイヤーによる食に関する小物も充実。

常に満席状態の『SHOZO COFFEE』。コーヒーとスコーンを目的にやってくる近隣のお客様も多いのだとか。

エコシステムは、異なる要素が協業的に機能し合うことで循環する仕組みでもある。飛び抜けた何かだけでは語ることのできないマセラティ・グラントゥーリズモの爽快にして緻密なまでの完成度は、今という時代を見据えたGTにふさわしい高みに達していた。


文:南陽一浩 写真:高柳 健 構成:前田陽一郎(本誌)
協力:THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田、コモングラウンズ
Words:KazuhiroNANYO Photography:KenTAKAYANAGI Edit:Yoichiro MAEDA
Thanks to THE HIRAMATSU KARUIZAWA MIYOTA, Karuizawa Commongrounds

南陽一浩

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