神聖化された3台のアストンマーティン「DP」シリーズの一斉テストでわかった事実

Photography:Matthew Howell Period images courtesy Brian Joscelyne, Neil Corner and Paul Chudecki



驚いたことにクラッチは重すぎず、実にスムーズに動く。これなら誰でもエンジンを回さずに発進できるはずだ。エンジンは6500rpmで377bhpを生み出すが、シフトポイントは6200rpmと指示されている。それでも瞬時にパワーが湧き出し、加速は衰えることなく続く。これは適切なギア比とフラットなトルクバンドのおかげである。ストレート6のレスポンスは素晴らしく、ツインエグゾーストからの低い排気音も素晴らしい。ド・ディオンアクスルは充分に役目を果たしている。一旦タイヤが温まれば、南コース(GPサーキットのストウとアビー・コーナーを含む)の新しいアリーナ・セクションの長い高速左コーナーを絶妙にドリフトしながら抜けることができる。リアのグリップは充分で、ハンドリングはリニアで予想しやすく。この点で言えばDB4GTからかけ離れてはいない。滑りやすい路面にもかかわらず、鼻先は素直に向きを変え、わずかなアンダーステアはスロットルでリアを若干滑らせることで釣り合わせることができる。すべての状態が掴みやすく、コントロールしやすい。ロールは適切に抑えられており、シャシーのバランスも文句なし。ブレーキも強力で自信を持って踏むことができる。

214の室内はほぼ同じであるため、乗り換えてもまったくまごつくことはない。400cc小さいエンジンは1963年当時のスペックのままで302bhpを発生する。212ほどパワフルではないが、わずかに軽い車重が埋め合わせている。最大トルクも279lb-ft/5500rpmと低いが、もちろん充分だ。この車も力強いが、パワーバンドがより狭いために5500rpmから6000rpmの間にキープしなければならない。また4500rpmを下回るとトルクががっくり落ち込むことにも注意しなければならない。214は非常に速いマシンで4段ギアボックスも使いやすい。

再び雨が降り出したせいもあるが、この車の場合もタイヤが温まるのに時間がかかった、スピードを上げていくと、エンジンがより後方に積まれているのに、なぜか212よりもステアリングが重いことに気づいた。ボディの姿勢変化は大きめだったが、重量配分に優れているせいで、低速コーナーでもほんのわずかなアンダーステアとともにコーナーの縁石をピタリと狙うことができた。シャシーは212ほど引き締まった感じがせず、より繊細なコントロールが必要だ。ところが、一度それに慣れてしまえばレーススピードでのコーナリング能力は212に勝るとも劣らないものだった。エンジンが車体の中心近くに積まれているおかげで、214はさらに機敏に向きを変え、そして美しいドリフトを維持することができる。より一般的なリジッドアクスルを採用しているが、高速コーナーでのリアのグリップは212と変わらなかった。パワーはそれほどでもないが、バランスに優れた214は212よりも結局は速いと感じられた。

同じような重量で371bhp/6000rpmを生み出すエンジンを積む215のストレートの速さは212と同等に感じられた。ただしギアリングの違いを頭に入れておかなければならない。212はル・マン用の高いギアと15インチホイールを持つが、215はロードユースのためにファイナルが高い。212の場合、クラブ・シケインやベケッツのような低速コーナーでは3速を使うが、215では2速に入れなければならない。

DP215のギアレバーの周囲にはスチールのゲートが切ってあるため、シフトはほんの少し慎重に行う必要がある。もっとも、回転を合わせてダブルクラッチを踏むのは楽しい作業だ。ブレーキパッドは212や214に比べてレース用のよりハードなものが装着されており、適正な温度に達するまでに数周を要したが、その効き目は抜群で、踏み応えは固くストロークも短いために、意識的にしっかり踏まなければならない。ロードユース用に車高が若干高いにもかかわらず、ロードホールディングは明らかに3台の中のベストである。

アンダーステアはほとんど感じられず、驚くほど正確で鋭いステアリングは、まさに狙ったポイントにノーズを向けることができる。アリーナ・セクションの高速コーナーでは美しいドリフトを演じながらも、212や214の場合よりもラインを小さく留めることができる。これぞリアグリップが優れている証である(独立式サスペンションが効果を発揮している)。洗練されたリアサスペンションのおかげで、DP215は不整を踏んだ時の乗り心地も快適と言っていいほどである。その3台のプロジェクト・アストンは皆驚くほど速い車である。あと少しの信頼性さえあれば、間違いなく当時の期待に応えたはずである。おそらくル・マンの表彰台をアストンで独占することもできただろう。これらはまことに貴重で美しい走る工芸品である。アストンマーティンの歴史の中で最も偉大で価値のあるマシンは、今なお変わらずに輝き続けている。



アストンマーティン・プロジェクト212
エンジン:3996cc(現在は4164cc)6気筒DOHC ウェバー50DCOキャブレター×3基 ウェットサンプ
最高出力:330bhp/6000rpm(377bhp/6500rpm) 最大トルク:300lb-ft/5500rpm(336lb-ft/5550rpm)
トランスミッション:5段マニュアル LSD 後輪駆動
サスペンション前:独立ダブルウィッシュボーンコイルスプリングテレスコピックダンパー
サスペンション後:ド・ディオンアクスルトレーリングリンク/ワッツリンクコイルスプリング/
テレスコピックダンパースタビライザー(オプション)

ブレーキ:ソリッドディスク 2シリンダーキャリパー 車重:975kg(ドライ) 最高速度:175mph

アストンマーティン・プロジェクト214
エンジン:3750cc 6気筒DOHC ウェバー50DCOキャブレター×3基 ウェットサンプ
最高出力:310or314bhp/6000rpm(現在は302bhp/6000rpm)最大トルク:約280lb-ft/5500rpm(279lb-ft/5500rpm) 
トランスミッション:5段マニュアル LSD 後輪駆動
サスペンション前:独立ダブルウィッシュボーンコイルスプリングテレスコピックダンパースタビライザー
サスペンション後:リジッドアクスルトレーリングアーム/コイルスプリングテレスコピックダンパー 
ブレーキ:ソリッドディスク 2シリンダーキャリパー 車重:962kg(ウェット) 最高速度:186mph

アストンマーティン・プロジェクト215
エンジン:3996cc(現在は4164cc)6気筒DOHC ウェバー50DCOキャブレター×3基 ドライサンプ
最高出力:326bhp/5800rpm(371bhp/6000rpm) 最大トルク:約300lb-ft/5500rpm(337lb-ft/5500rpm)
トランスミッション:5段マニュアル LSD(オリジナルはトランスアクスルレイアウト)
サスペンション前:独立 ダブルウィッシュボーン サスペンション後:独立 不等長ウィッシュボーン 
ブレーキ:ソリッドディスク 2シリンダーキャリパー 車重:907kg 最高速度:198mph

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Paul Chudecki 

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