モータースポーツを芸術として写した人物が当時を振り返る

octane UK




ジェシー・アレクサンダーとメルセデス・ベンツW196。1961年ウンターテュルクハイムにて


ウンターテュルクハイムでメディア向けに開かれたイベントに招かれたときのカットだ。乗っているのは自分で、当時所属していた雑誌の編集長、カール・ルドヴィクセンがこの写真を撮ってくれた。メルセデスのテストトラックでファンジオが乗ったW 196を思い切り試せるというイベントだった。この車はちょうど昨年、ボナムスのオークションで3000万ドル(約36億6000万円)で落札された車そのものだ。このイベントには一握りのジャーナリストしか呼ばれていなかったので、カールが走ったあと私はPRマンに自分も乗せてもらえないだろうかと頼んでみた。するとこの車のシフトパターンは複雑なので、ギアボックスを壊さないようにギアチェンジなしならいいよということになった。厚いトルクのおかげだね。この車に乗れるチャンスをもらったことは特権を得たかのように感じたものさ。


ジョン・サーティースとフェラーリ158。 1958年モナコGPにて


サーティースがタバココーナーを回ってフロントストレートに向かうシーンだね。後ろに見えているのはジャッキー・スチュワートだと思う。私はプラクティスの間中、ピットにいてベンチの上から長ダマで撮影していたんだ。雨はどんどん強くなっていたからね。雨のモナコを撮るのはチャレンジングだよ。なぜって歩くことさえ難しいのだから。それでもガスワークス・ヘアピンまで行って何枚か撮ったけど、どれも厳しいものだった。やはりこのレースでベストショットと思うのはプラクティス中のものだね。3回のセッションに分かれていてバラエティーに富んだ撮影ができたからだよ。それまでサーティースはそんなにいいドライバーだとは思わなかったけれど、才能あるドライバーだね。2輪でもF 1でもチャンピオンになったのだから。彼は2、3回撮ったことがある。1枚はエンツォといっしょのショットだけれど、気の毒なくらいやつれていたね。


ジム・クラーク、1962年スパ・フランコルシャン、ベルギーGPにて


私が知る限りジム・クラークをメインに撮ったのはこの1枚だけ。1970年代はあちこちを回ったが、そのとき自分に言い聞かせてきたのは、どんなときでも消極的になってはいけないということだ。このレースのあと表彰台に彼が立ったのを見て「撮るなら今だ」と思った。そこにどんな修羅場が待っていようと知ったことではない。でも冷静さも必要だ。私は表彰台の階段のありかを確認した。すでにトロフィーの授与は済んでいたからすぐに降りてくると思ったんだ。私は階段のほうに歩いていって「ジミー」と声をかけた。すると彼は振り向いてこっちを見た。何枚かシャッターを押したことは覚えているが、一番いいのがこのショットだよ。とっさに撮ったけれど偶然にも露出はバッチリだった。もちろんフィルムを現像するまでどう写っているのかわからないけれど、うまく撮れたときは確信があるものなんだ。この写真も確信が持てた最高の1枚だよ。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Preston Lerner

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