ドナルド・ヒーレーが使用した個人的なアイテムの思い出

Photography:Jason Fong





ドナルド・ヒーレーは自分を売り込むこともやぶさかではなかった。駆け出しの自動車会社の地位を確固たるものとするには豊富な人脈が必要だが、そうした人脈作りも大いに楽しんでいた。1945年の創業以来、瞬く間にビジネスを広げたその手腕にはケイトも賛辞を惜しまない。

1950年代初頭、カナディアンウイスキーのロードカルバートが、“特別な紳士に”と銘打った広告シリーズを雑誌に掲載していた。洒落た身なりの探検家や実業家、鳥類学者などと並んで、自動車業界の新星、ドナルド・ヒーレーも取り上げられた。フルカラーの広告が掲載された当時の『Life』誌を一家は大切に保管してきた。粋な佇まいでウイスキーのグラスを掲げるドナルドと、その後ろにビッグ・ヒーレーが描かれている。古き良き時代を思わせる広告だ。

ヒーレー家には、ロードカルバートの献呈ボトルも残っていた。ドナルドの写真入りの小さな新聞広告が添えられている。「このボトルは、開けずに家の戸棚にずっとしまってあったの。ところがいつの間にか開いていて、私が犯人にされた。でも、私じゃないのよ!」ケイトはすぐに「今のは載せないでね」と言ったのだが、誘惑には逆らえず、掲載させてもらった。

祖父ドナルド・ヒーレーについてケイトはこう振り返った。「いつも作業場で何か面白そうなことをやっていたわ。ハンダと熱くなった電気器具の匂いを覚えている。子どもと遊ぶ時間などない人だったけれど、いつもすごく優しかった。人の記憶に残るのは祖父のバイタリティーや発明でしょうね。私にとっては、祖父はいつだって"特別な紳士"だった」


編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)  Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words:Martin Gurdon 

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