ドナルド・ヒーレーが使用した個人的なアイテムの思い出

Photography:Jason Fong





黄ばんだトレーシングペーパーの筒をそっと広げると、ラフスケッチや設計図など、宝の山が姿を現した。流れるようなシルエットのツーシーターを横から描いた初期のスケッチは、明らかにオースティン・ヒーレー100へと変貌する一歩手前の姿だ。1960年代中頃に描かれたビッグ・ヒーレーのフィクストヘッド・クーペの構想図では、オリジナルより直線的なシルエットを考えていたのが分かる。また、ユタ州ボンネビルの塩湖で耐久記録を樹立したマシンの大きな設計図もあり、標準のオースティン・ヒーレーのアウトラインに重ねて流線型のボディが描かれている。

ケイトは、その車のアクリル製キャノピーを指さした。この車で残された唯一のパーツだ。ほかは、ボンネビルの塩で錆び付いたものを使って、誰かがバカな真似をしないようにとスクラップにされてしまったのである。「何年もの間、父はそのキャノピーをトマトの苗を育てるのに使っていたの。1970年代に、アメリカ人が何か買い取れないかと訪ねてきたことがあった。庭で行われていることを見たときには目を疑ったでしょうね。その人がキャノピーも買って持っていった。今どこにあるのかは分からない」

ジョフリーにとって、ウォリックシャーの自宅の庭は別の意味でも実り豊かな場所だった。離れを作業場に改装し、“瞑想場所”としたのだ。「そこは父の秘密の庭の書斎だった。窓をレンガでふさいで、中で何をしているか誰からも見えないようにしてね。そこへ行っては好きなものに囲まれていたのよ」ほかにも温室を改装し、やはり窓をレンガでふさいで、旋盤や工具を収めていたという。


編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)  Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words:Martin Gurdon 

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