21台のランボルギーニとイスレロが走る│猛牛のアニバーサリー・ツアー

Photography:Rémi Dargegen



このツアー中の私のコドライバーはオペラ歌手にしてクラシックカー査定家、そして"ジェイ・レノ・ガレージ"のプレゼンターのひとりでもあるドナルド・オズボーンだった。ドナルドは頭を剃り上げた隙のない身なりのカッコいいアメリカ人だ。ニューヨーク育ちでカリフォルニア在住の彼は、ちょっとくたびれたミドルクラスの英国人である私とはあらゆる面で違っていたが、10分も経たないうちに、私たちは、車はもちろんそれ以外でもまったく同じ趣味を持っていることが明らかになった。

たとえば、イスレロで走り出して間もなくドナルドがつぶやいた。「この車は何だかあれに似ているな。まるで…」その時、私は彼が何を言おうとしているかがすぐ分かった。「…ちょっと大きなランチア・フルヴィアみたいだ」大きなグラスハウスと細いピラー、そしてボンネットの下には4リッターV12エンジンを積んでいることを除けば、全体的なプロポーションは非常にフルヴィアに似ているのだ。

もちろん、言うまでもないことだが、フルヴィアのような軽快なタッチは持ち合わせていない。これはロジャー・ムーアのような"男の中の男の車"である。首根っこを掴んで抑え込む筋肉を持つ男のための車である。ステアリングホイールは私の古いエスパーダほどバスのような角度はついていないが、低速では同じような重さを持ち、操舵するにはそれなりの力が必要だ。その分、飛ばした場合はしっかりとした手応えがあり、正確に効率的にコーナーをこなすリズムを頼もしく感じることだろう。オランダのEZ製のような、ボルトオンの電動パワーステアリング・システムを取り付ければ操舵が楽になることは間違いないが、そうすると骨太な逞しさがある程度薄れてしまうのも事実である。



4リッターV12エンジンはエスパーダのものと同じようなキャラクターを持っている。低回転ではいささか荒々しく、メカニカルノイズも聞こえるが、6基のウェバー・キャブレターを大きく開けるにつれて、バルブトレーンの機械音や吸気音が唸り声から高らかな音楽へと変化していく。ただし、こうやって回すとエンジンが完璧な状態ではないことが分かった。高回転では片方のバンクがミスファイアしているようだった。プラグか、それともキャブレターか?正確な原因は分からなかったが、それでもツアーの全行程を通じて、他のランボルギーニと同じようにまったく弱音を吐かないパフォーマンスを見せてくれた。

ツアーのスケジュールはシンプルだ。午前中はどこか風光明媚な場所、たとえばオリヴィエートやアッシジ、カステルブオノといった絵葉書のように美しい中世の街までドライブした後、豪勢なランチをゆっくりと楽しみ、午後はその日の宿まで移動するといった行程を3日間に渡って繰り返し、ランボルギーニの本拠地であるサンターガタにフィニッシュするというものだ。景色は本当に素晴らしく、旅の仲間も文句なし。ひとつだけ小さな不満があるとすれば、私たちはコンボイで移動するように指示されており、勝手に単独行動ができなかったことだった。私たち一行は、2台のモーターサイクルに乗ったたいへんな働き者の"ガードマン"にエスコートされており、彼らは要所のラウンドアバウトでは勇敢にも手を挙げただけで強引なトラックなど他の交通をブロックして、私たちのコンボイをスムーズに通してくれたのだ。非常に助けられたことは間違いないが、V12エンジンをそれらしく回したい時には、私たちが本当に求めているものとはちょっと違ったことも事実である。

もっとも、コンボイシステムにも良いところはある。エスパーダがきれいに列をなしてコーナーの向こうまで連なっている眺めは素晴らしかった。太陽の光がガラスとクロームに反射している光景は夢のように魅惑的だった。それに加えて、道中の人々の反応を見るのも楽しかった。イタリア人が車好きなことはもちろん知っているが、誰もがそれが当然のようにランボルギーニの行列に道を譲ってくれた。何度も道路工事中の場所を通ったが、作業していた上半身裸の男たちはその度に仕事の手を止め、腕を振って見送ってくれた。イタリア以外ではこうはいかない。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Mark Dixon 

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