ブリキのカタツムリで旅するプロヴァンス

シトロエン2CV(Photography:Martyn Goddard)



この"ブリキのカタツムリ"は、農村生活のためにあるようなものだ。マーティンの険しいドライブウェイを笑い飛ばし、道に出ると排水用の畝を嬉しそうに走り抜けた。田舎道を数キロ走ると、私は2CVを楽しむ若僧に戻っていた。屋根を開け、エンジンを"ぶん回して"カーブを走った。

昼食時には、アンスイの中心部でこの2CVの写真を撮影した。人通りは少なかったが"Bar des Sports"の外で飲んでいた数人の地元民達が、このシトロエンに向けて笑顔で熱く親指を立ててくれた。

2CVはすばらしいマシンだ。よりエキゾチックな車を好む人でさえ、その華麗ともいえるシンプルさに感銘を受けざるを得ない。デッキチェアのような形のパイプフレームに布を被せただけのシートは快適で、前方の道路以外に見るべき物は電流計とスピードメーターだけだ。スピードメーターは金属製ステアリングホイールの左側に高く固定され、上限は100km/hまで刻まれているが、頑張っても65km/hを超えることはなかった。モペッドに乗る若者に何度も追い抜かれたほどだ。

3日目には、ここから北にある、ツール・ド・フランスの第12ステージとなった地に向かった。

「この先の道路閉鎖」の警告が何度も姿を現した。それはモン・ヴァントゥ山の頂上へ向かう途中、ゴルド峠とトロワ・テルム峠のアスファルト舗装をし直したばかりの路面のせいだ。この地方の岩石の赤い色合いから、この一帯は「レ・コロラド・プロヴァンサル」(プロヴァンスのコロラド州)と呼ばれるようになった。

ここまでの道程では、他の観光客にはほとんど出会わなかったが、次の停車地では何とか人々を見つけることができた。セナンク修道院に到着した時、数台の観光バスの横で、スマートフォンに向かってポーズをとる観光客たちがいた。頭上でかすかに唸る音が聞こえたと思ったら、上空で12世紀の建物の写真を撮っているドローンだった。

私たちは、再びレースルートへと戻った。1902年から1976年まで開催された「モン・ヴァントゥ・ヒルクライム」のスタート地点であった、ベドアンの「ホテル・デ・パン(Hotel des Pins)」に到着した。モン・ヴァントゥ・ヒルクライムのコースは、山頂展望台をゴールとする全長21.6km。イベント初年度のウィナーは、70HPのパナール・エ・ルヴァッソールだが、所要時間は27分17秒もかかった。そして、最終回となった1976年には、ジミー・ミエウセットの乗ったマーチが、わずか6分11秒で走り切って優勝を果たした。

今回の旅でこのコースにアタックした私たちの記録は、後者よりも、1902年の記録にかなり近いものではあったが、これほどまでに車で楽しく過ごせたことは稀である。

読者の皆さんがプロヴァンスを旅するなら、是非とも2CVに乗ってみることをお勧めしたい。もし、その気になったら、誰でもすぐにレンタルが可能だ。

「ティン・スネイル」(ブリキのカタツムリ)は急ぎの旅には向かないが、その代わり、フランスのどこに行っても歓迎されることは間違いないだろう。そしてその旅は、目的地での出来事を上回るほどに記憶に残ることは請け合いだ。

この旅に詳細な情報については以下もご参照いただきたい。
- Hotel Mas de Guilles, guilles.com
- Hotel des Pins, hotel-des-pins.fr
- 2CV hire, 2cv-provence-location.fr
推奨図書:アンドリュー・ブロディー著
『An Omelette and Three Glasses of Wine: En Route with Citroens by Andrew Brodie』


特に屋根を後方に巻いて開く2CVは、プロヴァンスのラベンダーの香りからは逃れられない。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:BE-TWEEN(平野 Julia、Shawn Mori、東屋彦丸) Translation:BE-TWEEN (Julia HIRANO、Shawn MORI、Hicomaru AZUMAYA) Words and Photography:Martyn Goddard

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事