BMW CSL バットモービル vs ポルシェ911 カレラ 2.7 RS│ホモロゲ仕様の対決!

Photography:Paul Harmer



スパのピットレーンに佇むポルシェは小さく素敵に映った。FRP製バンパーとリアのダックテールに付くラバーなどの外観から、ライトウェイトであることが分かる。コクピットへはスムーズに入ることができ、バケットシートはとても心地よい。各ドアパネルはシンプルで、小さなプラスチック製ドアハンドル、手動のウィンドウ巻き上げ機構を収納する。このシンプルさは、ラバーマット、最低限のトリム、前方の大型VDO製計器、回転計内の7300rpm部分への簡単なマーキング、300㎞/hまで刻まれた速度計などにも通じている。

エンジンはすぐ目覚めて強い怒鳴り声を上げる。比較的消音されていない空冷フラットシックスエンジンは、今までの自動車の音で最もよいサウンドを奏でると思う。メカニカルフューエルインジェクションを通して素早くスロットルに対応する。クラッチはソフトかつスムーズで、ポルシェらしい調子のよい精妙さが現れるが、ギアシフトのストロークが長い。

第一印象は、おとなしくて素直な車である。同年式の2.45Sよりさらにトルクが厚く、その違いはすぐに感じることができる。4000rpmで115bhpを発揮する911Sではベストな状態でいるために5000rpm以上を維持する必要があるのに対し、RSは4000rpmで140bhp発生するのでかなりの相違だ。しかも容易く7000rpmまで回してくれる。

RSをドライブすれば、そのレースの血統が現れてくるのを感じる。ワイドなリアホイールが後方重量への偏りをコントロールし続けるのに効果的な仕事をし、エアロダイナミックなパーツ類が80mph(約129㎞/h)を超えるとポルシェを地面に押し付けるように前かがみになり始める。ブレーキにはサーボアシストの備えがないため、思い切り踏む必要がある。

リアエンジン・レイアウトによりコーナーリング中にトラブルに見舞われることはあるかもしれないが、ポルシェはとても機敏なので、入り口で強くブレーキングしてシフトダウンし、ミリ単位で正確なステアリングでアペックスを軽くひと突きし、出口の手前でスロットルを全開にすればよい。その強いトルクゆえにエンジンにはパワーがあり、抜群の後輪トラクションにサポートされ、RSは狂ったようなスピードでコーナーから吹っ飛んでくる。フロントは軽く、典型的な911マナーでチョロチョロと左右に振れ、乗り味はとても硬い。この車にもアンダーステアが出るが、多くの911よりもその度合いは少ない。

このBMW CSL(シャシーナンバー:2275512)は、比較的重い1250㎏の車重だが、非常に頑丈なマシンだ。シャモニー・ホワイトのカラーにストライプ、ウィングとウィンドウ・スプリッター装着で1973年に完成したこの新しいマシンは、素晴らしい外観であった。また、たった167台生産されたうちの1台であることから、実際のところカレラRSよりも、それも人気の"ライトウェイト"よりもレアであった。



CSLがオリジナルかどうかは自分で確認が可能だ。ルーフを押してみると、パネルが薄いため驚くほどへこむ(力を入れすぎないように)。インテリアは職人仕事らしい仕上がりだが、ポルシェより豪華で、木製のキャッピングが施されている。快適なシェール製バケットシートは低く配置され、貴重なオリジナルのステアリングが装着されていたが、その位置は高過ぎるように見える。VDO製の計器は整頓されており、ハルダ製の距離計がこのCSLが適切に使用されていることを示している。

この直列6気筒エンジンは、仕掛けなく呼吸するエグゾーストマニフォールドのおかげで、過度の唸り声とともに始動する。CSLは標準では4速のギアボックスが装備されるが、オーナーはドッグレッグパターンシフトのゲトラク製クロスレシオ5段型に換装し、オリジナルの4段型はスペアとして保管している。シフトは重く、メカニカルな感触だが、1速から2速のシフトで急ぐことはなく、そこからはうまく動かせる。

公道上ではバットモービルは奇抜に見えるが、BMWらしく振る舞う。しなやかで、スムーズで、適切に正確だ。そのエンジンは、5500rpm以上回さずとも、充分なトルクを提供してくれる。

だが、100mph(約160㎞/h)で、バットモービ
ルはサンデージョガー(日曜だけジョギングする人)から真のアスリートへと変貌する。ステアリングが機敏になり、スムーズな乗り味は車が道に対してスクワットするように固くなる。SG Motorsport社のジェラルド・スメットによると、この大きなGTカーはドライバーの味方であり、また高速レースが得意だ。ポルシェに代表される純然たるスポーツカーは、1周目には先行するかもしれないが、すぐに"ビマー"(BMWの俗称)がそのスピード、安定性、優れたハンドリングを駆使して追い上げる。

今回の2台ともスペシャル・ホモロゲーション仕様のファクトリーマシンだ。そして美麗かつ効果的なエアロダイナミクスのパイオニアである。ポルシェ911カレラRSは、鋭く素早いスポーツカーだ。対するBMW CSLバットモービルは、効果的に改良されたグランドツアラーだといえよう。ともに公道での高速走行を楽しめ、ヒストリックなレースのイベントにも適している。

レアなこのBMW CSLがもし市場に出たとして、10万ポンド(約1800万円)以上するという。一方、カレラRSは生産台数が桁違いに多いものの、伝説的な存在ゆえにCSLの倍以上のようだ。そう、言い忘れたが、BMW CSLのちょっとしたボーナスは、ツアーオート終了後のディナー用にタキシードとブラックタイの一式をトランクに入れて持って行けることだ。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:東屋 彦丸 Translation:Hicomaru AZUMAYA Words:Robert Coucher 

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