自動車の歴史の中で最も尊敬に値するエンジン│ポルシェフラットシックス

octane UK


 
フラットシックスの進化を語る前に、もうすこしオリジナルの901エンジンについて掘り下げてみよう。最初に発表された901エンジンは、ボア・ストロークのボア、つまり内径のほうが大きいオーバースクエアで、1991㏄の排気量と9.0:1の圧縮比から130bhpの出力を発生していた。アルミ製のクランクケースは縦に2分割され、そこに6個に分割されたシリンダーバレルが差し込まれていた。

鉄製ライナーのまわりにアルミ製のアウター材が鋳造されることから、2つの金属を合わせたバイメタルを意味する"バイラル" 構造と呼ばれた。それぞれのシリンダーバレルは独立しているのでヘッドも独立したものとなった。カムシャフトはスタッドレスで保持され、各バンク3気筒を1本で受け持った。ヘッドは半球型燃焼室の中に2本のバルブを擁し、1本のカムシャフトがその上からロッカーアームを介してバルブを動かすという仕組みだ。

ロッカーアームは当初、鍛造のスチール製だったが、安い911Tがバルブトレーンの中の弱い連結箇所でそれを使用しても問題がなかったことから鋳造に置き換えられた。言い換えればこのとき、カムドライブに問題があったということで、何かあって全体に大きなダメージを及ぼすよりはロッカーアームが単独で壊れたほうをよしとする考え方

である。
 
鍛造製のクランクシャフトは8個のメインベアリングで支えられ、クランクピンは反対側のシリンダーに対してお互いが180°になるように設定された。メインベアリングはクランクピンの間に置かれた。この設計ではクランクウェブがベアリングジャーナルとクランクピンの間にあることになり、簡単に壊れるのではないかと不安視してもおかしくないが、実際にそういうことはなかった。
 
秘密はクランクシャフトの下側にあるインターミディエートシャフトの存在が握っていた。これはクランクシャフトがギアを介して回すもので、ギアの歯数はクランクシャフト側が28、インターミディエートシャフトが48だ。インターミディエートシャフトは両端にそれぞれ歯数24の計2本のチェーンスプロケットが付き、歯数28のスプロケットを持つカムシャフトを回転させる。これでカムシャフトはクランクシャフトの半分のスピードで回ることになる。このシステムのメリットは、2枚の歯が9回転する中で歯が合うのはわずか1回だけということから、共振を起こす可能性が低かったのである。

ツインカムヘッドや4バルブヘッド、そして水冷システムの導入で進化を受けてもなお、メッツガー・エンジンが997時代のGT3に残り、M96エンジンと併存したのにはどういう理由があるのだろうか。M96型はボクスターとともに誕生したものの、その後コアな部分が変更された。クランクケースには水冷のシリンダーが一体成形され、ヘッドも3気筒分が一体化された。

7個のメインベアリングに支持されたクランクシャフトは、クランクケースにボルト留めされた2分割のベアリングブロックなるものの中で回るようになり、それまでのギア式に代わってダブルローラーチェーンを介して下にあるインターミディエートシャフトを回転させるようになった。チェーンはこれまでよりさらに遠いところにあるカムシャフトを駆動することになったが、そのカムシャフトはロッカーアームを介してではなく、バケットタペットをダイレクトに押す。

しかし、右バンクのカムシャフトの駆動はインターミディエートシャフトの後端で回されることになり、左バンクはその反対にインターミディエートシャフト先端から回転される。この一見奇妙な駆動システムは左右のバンクが位置的にずれていることを利用したものであり、デッドスペースの有効利用がより短くコンパクトなエンジンを実現したということである。インターミディエートシャフトから回されるのは両バンクとも排気側のカムシャフトで、吸気側シャフトはそこから別に備わる単列のチェーンで回された。


そしてそのチェーンの途中には吸気バルブタイミングを変化させるバリオカムが存在していた。これはエンジンの回転数に合わせて最適な開閉タイミングを与えるというもので、一種のテンショナーがチェーンを緩ませたり引っ張ったりして調節した。
 
バリオカムはやがてまったく異なる機構で働くバリオカムプラスに進化。競技車両ベースのGT2を含めたターボ車にいち早く採用されたあと、2002年からはノンターボの911にも投入された。つまり、このときのM96の完成を待って、メッツガー由来のエンジンは完全に消滅したのである。バリオカムプラスは分割式の最終段チェーンドライブを省略することができ、メインのチェーンひとつでインターミディエートシャフトから吸排気の2本のカムシャフトを直接駆動することを可能にしたのである。仕組みはカムシャフト後端に備わるピストンがカムシャフトを軸方向に動かすことでバルブタイミングを変化させ、一方でバケットタペットの中に仕組まれた油圧タペットがバルブのリフト量を2段階に変えるというもので、この両者の働きでエンジンが要求する状態にベストフィットすることができた。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:John Simister

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