美しい街並みとワイン、食...シトロエンDSで走るフランス・アルザス地方への旅

Photography:Martyn Goddard



ヴォージュ自然保護区の北側に位置するウィンジャン‐シュル‐モデにルネ・ラリックがガラス工房を開いたのは1921年のことだった。同じ場所に2011年、ミュゼ・ラリックが開館した。翌日、私たちは曲がりくねったD135でDSを右に左に大きくロールさせながら現代的なミュゼ・ラリックを目指した。ラリックは、フランスで最も偉大なアールヌーボーの宝石職人であることに満足せず、フランソワ・コティのためにガラス製香水瓶のデザイン、製作に乗り出した。ガラス瓶は量産する必要があったから、彼にとっては大胆なビジネス上の転身だったはずだ。

美術館には長い歴史の間に作られたあらゆるデザインのガラス作品が展示されていたが、やはり一番惹かれたのは1920年代の車のボンネットを飾った25種類のオリジナル・ラジエターマスコットである。ラリックの工場は今もフル操業中で、最近ではブガッティ・タイプ41ロワイヤルの踊る象のマスコット(元々はエットーレの弟のレンブラント・ブガッティの彫刻作品)を復刻したほか、ブガッティの馬蹄形のラジエターを模ったワイン・デキャンターを製作したという。ラリックと自動車の関係はこの工場よりもさらに長く、1906年に作った第1回タルガ・フローリオの優勝トロフィーに遡るという。

この日のもうひとつの目的地も、華麗な過去を感じさせるところだった。アグノーにある"ミュゼ・デュ・バガージュ"は、かつて世界中を旅した貴族や大富豪たちの鞄であふれたアラジンの洞窟である。マリーとジャン ‐ピエール・ローランのコレクションは、彼らがヴィトン一族にレストアラーとして指名されたこともあって、いつの間にかビジネスになったという。彼らは自社ブランドの特注トランクも製造している。たとえば"アルザス"は最低 9000ユーロもする究極のピクニック・バスケットで、生ビールのポンプやワインクーラーまで備えており、またモーガンのリアデッキ搭載用の特製トランクも製作している。



館内にはゴヤールやルイ・ヴィトンなど世界的トップブランドの自動車用、あるいは汽船用トランクが数え切れないほど展示されており、鞄の歴史をたどることができる。たとえば1930年代、あるポーランド貴族の一家は計53個(!)ものトランクとともに旅をしたのだという。すべて150×100×50cmサイズで、ひとつひとつがそれぞれの名前や紋章入りである。この博物館はモーガン・スポーツカー・クラブなどの自動車クラブのツアーの目的地としても知られている。そのオーナーたちが潜在顧客であることはいうまでもない。

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words and photography:Martyn Goddard

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