美しい街並みとワイン、食...シトロエンDSで走るフランス・アルザス地方への旅

Photography:Martyn Goddard



二人分のスーツケースを積んだシトロエンは、アルザス・ワイン街道の北の起点であるマルレンハイムに向かった。200kmに及ぶこのワイン街道は1953年に創設、沿道には1000カ所にも上る地元のワイン醸造所があるという。モールスハイムに続く道の周囲に広がるブドウ畑は秋の黄昏の光に輝いていた。この日のゴールはホテル・ブガッティ、かつてブガッティ一族の邸宅だった建物である。

モールスハイムの近郊にはブガッティ所縁の名所が10カ所もあるという。元ブガッティ家の別邸で現ブガッティの本社であるシャトー・サン-ジャンを訪れて、ヴェイロンを直接受け取るほど恵まれていない一般のエンスージアストは、その聖地を巡るのだ。私たちはドゥッピグハイムのジャン・ブガッティの慰霊碑に向かった。エットーレの長男ジャンは1939年、タイプ57C"タンク"レーシングカーのテスト走行中に、突然現れた自転車を避けようとして200km/hで森に突っ込み命を落とした。

その後、私たちは街道を南に向かった。DSは美しく丹精されたブドウ畑の中のワインディングロードを抜け、ピノキオの物語に登場するような可愛らしい村を通り過ぎ、滑らかに走り続ける。黒と白の半木造の英国の建物とは違って、フランスの家は柔らかで落ち着いた色に塗られており、それはまるでDSの乗り心地のようだ。この街道は宝石のついたネックレスを思わせる。ひとつひとつの村は道という糸で結ばれたそれぞれの宝石なのである。問題はどこで車を停めるかということだ。それぞれの村は興味深い成り立ちと建築を持ち、そのすべてに素晴らしいレストランとワイナリーがあるからだ。

ベルクハイムのオーベルジュに立ち寄り、アルザス伝統のタルト・フランベ(薄いピザのようだ)と地元のピノ・グリジオに舌鼓を打ち、制限速度を守ってのんびりと走ってきたにもかかわらず、午後半ばには13世紀に作られたリクヴィールの城壁の下にDSを停めることができた。

アルザスの魅力は、8300平方メートルの範囲に多様な風景が広がっているところだ。ヴォージュ山脈の最高峰、標高1415mのグラン・バロンから東に12kmほど行くとライン川の氾濫原とドイツとの国境があり、その間の山裾にブドウ畑がパッチワークのように広がっている。その土壌は肥沃で肥料を加える必要がないという。街を行く観光客も田舎道を走るサイクリストも私たちを見ると笑顔を向けてくれた。皆口々に「父親もDSに乗っていたんだ」と言っているかのようだった。

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words and photography:Martyn Goddard

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