コンクール常勝の「タルボ・ラーゴT150C」オーナーに学ぶ「美しい車」の本当の価値

1937年 タルボ・ラーゴ T150C SS フィゴニ・エ・ファラシ(Studio Photography:Michael Furman)



その後ピーターが成し遂げたビジネスを考えれば、それは賢い選択だったのだろう。彼はずっとアメリカ車を所有していた。最初の車は1953年シボレー・ベルエア・コンバーチブルだった。それは、1954年式のテールライトに交換し、ヴォン・ダッチによりゴールドの塗装とピンストライプが施された美しい車だった。アメリカン・クラシックカーの特徴であるテールフィンとクロームメッキには魅力を感じなかったようだ。

「2番目の車はポルシェ356でした。とても気に入って長く乗り続けました」ご存知の通り、ポルシェは基本的にティアドロップ型だ。

タルボ・ラーゴのティアドロップデザインはその何十年も前に完成したものだが、ピーターは一瞬もためらうことなく彼が持つ車の歴史をよどみなく語ることができる。

「これは1937年にフィゴニのデザインで造られたボディで、雨粒が大気中を落ちるときに作る形、または涙が女性の頬をこぼれ落ちるときに作る形にちなんだティアドロップ・タルボ・ラーゴとして知られる少量生産の一台です。

ジョセフ・フィゴニは、一流の腕を持つカロスリのひとりでした。おそらく彼は自然や神が創造したモノには太刀打ちできないと考えたのではないかと思います。そこでただ辺りを見渡し、優美さと摩擦係数においてこの世で最も完璧な形状を見出し、それを再現したのです」

完成した車は、1938年ニューヨーク・ワールドフェアにも展示された。

このティアドロップについては、名うてのプレイボーイであり、パイロットやレーシングドライバーでもあったフレディ・マックエヴォイによる有名な逸話がある。彼は巨額の遺産を相続したバーバラ・ハットンと酒場である賭けをした。自分はパリからカンヌまで10時間未満で車を走らせることができるとマックエヴォイは言い、バーバラはできない方に1万ドルを賭けた。もし、フレディが賭けに負けていたら、この大金をどう支払うつもりだったのだろうか。だが彼は夜に出発し、狭いつづら折れの道路が続く1930年代のアルプスを抜け、9時間45分でカンヌに到着した。

「マックエヴォイが見せた走りによって、この種の車が速くて美しいだけでなく、耐久性にも優れているということが証明されました。アルプスを9時間45分フルスピードで駆け抜けたというのは、驚異的な記録です」

タルボ・ラーゴについてピーターに話を聞けば聞くほど、この車に対する彼の想いをひしひしと感じる。1930年代、裕福なキャデラック・ディーラーの息子であるカリフォルニア生まれのプレイボーイ、トミー・リーが、1930年代にT150C SSを購入したときのこと。後にブルックス・スティーヴンスが所有したこと。そしてロサンゼルス周辺でのストリート・レースや塩湖のソルトフラッツを走ったときの様子などをピーターは説明してくれた。

自動車専門の記者でありデザイナーでもあるストラウザー・マック・ミンはピーターの車に関する記事で、トミー・リーが見せたティアドロップ・クーペのテールハッピーな挙動についても触れている。

「1941年、トミー・リーが所有する3台のティアドロップ・クーペの1台で、ハリウッドのアウトポストドライブをドライブしているときに知ったのです。それは実に素晴らしいパワースライドでした」

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE(CK Transcreations Ltd.) Words:Mark Dixon Studio Photography:Michael Furman

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事