3008や5008といったSUVが近年、大ヒットして日本市場でも再び存在感を増しているプジョー。SUVに限らず308やDS7クロスバックなど、ベースとなるEMP2プラットフォームの出来がすこぶるよいことがその下支え理由といえるが、いよいよEMP2を用いた本命、プジョーの当面の旗艦となるニューモデルが登場する。3月中旬にジャン・フィリップ・アンパラトCEOの手によってお披露目された508だ。このセダンに続いてステーションワゴン版の508SWも2019年夏、上陸する。
プジョー508のマーケット上での位置づけだが、セダンもSWも欧州Dセグメントに属することは確かだ。BMW3シリーズやメルセデスCクラスといったFRベース、あるいはAWD人気の高いアウディA4 といったプレミアム系が、日本の輸入車市場では強いセグメントではある。だが突然の雪に見舞われた日など、都内の路傍で難破した車種を眺めていると、ESP普及後の世の中とはいえ誰もがカウンターステアを得意としていない以上、FFのメリットは厳然としてある。
ならばAWDなら? という考え方もあるが、そもそも年に1、2度しか雪道を走る機会がないのなら、重量の増すAWDを背負って冬以外のスリーシーズンを過ごすのは燃費や動的質感の点で得策とはいえない。この辺りがフォードもオペルもいない日本市場で、プジョー508の存在理由となるだろう。加えて、アメリカ市場への再参入を検討中のプジョーにしてみれば、508はむしろトヨタ・カムリやホンダ・アコードといった国産勢に対峙する試金石といえるのではないか。
セダンでプジョー初の採用となった電子制御アクティブサスペンションをSWにも装備する。これは走行や路面の状況に応じてダンパー減衰力をリアルタイムに制御、4 つのドライビングモード(スポーツ/コンフォート/エコ/ノーマル)と連動している。
今回、フランス本国にて1800km以上にわたって先行試乗した508SWは、名前こそ先代と同じく508SWのままだが、外観の雰囲気はまったく異なる。サイズ的には全幅はプラス6mm広がって1859mm、全長マイナス35mmの4778mmとなる。先に上陸した新型508セダンに比べたら、全長自体は28mm長いが、ホイールベース2793mmは同じく。前後トレッドの1593/1590mmの前後トレッド(18インチ仕様の値)も同様だ。一見して、後端が少し跳ねるサイドウィンドウのグラフィックや、セダンよりルーフラインが長く伸びている視覚効果もあって、508SWはセダンよりも優雅でやさしい佇まいとも思える。
本国仕様には180psと225psの1.6リッターガソリンターボと、1.5リッターと2リッターのディーゼルターボを用意する。プラグインハイブリッドも2019年後半に登場予定とのこと。
借り出したのはガソリン1.6リッターターボのピュアテック180ps+アイシンAW製8段AT仕様で、最大トルクは250Nmとなる。本国のスペック表によれば同パワーユニット仕様のセダンが1420㎏で、SWはプラス40㎏となる1460㎏となっているが、ドライバーシートのランバーサポートやフォーカル社のHiFiオーディオシステム、スペアタイヤなどが標準で搭載された日本仕様のGTラインでは、セダンが1510㎏となっていたので、右ハンドル仕様のSWはおそらく1550㎏前後に落ち着くだろう。1.5トンをやや超えたとはいえ、Dセグメントとして軽量な部類といえる。そして同じEMP2プラットフォームとはいえ、308SWと違って508SWは、リアにマルチリンク式サスペンションを採用しているのだ。
このマルチリンクサスがなぜ見ものかといえば、昨年のパリサロンですでに発表済みで、遠からず市販予定のPHEV版にも採用されるがため。トランク容量など床上スペースに影響しないコンパクトさで、PHEV用バッテリーや後車軸の駆動モーターと組み合わせられるよう設計されている。だからこそ、より大きなルーフを背負い、荷室の積載重量をも担うべきステーションワゴン版のリアサスの出来は、セダン以上に気になっていた。
結論からいえば、高速道路でもワインディングでも市街地でも、狭いランナバウトの切り返しでももっさりとした動きが一切ないというか、フロント剛性に対するリアの追従性に不満はない。むしろセダンとほとんど感覚的に変わらないことに驚かされる。乗り心地のフラットさはセダンよりリアの抑えが効いている分、0.5枚ほど上というか、穏やかでさえある。ハンドリングについては、ただ剛性感のあるボディを支える上質なサスがよくストロークしているというだけではなく、タイヤのたわみからシャシーのしなりまで、全身を使いこなして表現されるような、躍動感に満ちている。
加えて、この508SWにはアクティブサスペンションが備わっていた。ドライブモード切替えによる可変シャシー機能は、もはや珍しいものではない。だが国産車やドイツ車で採用されているそれらが、パラメーター的に0~100%の間をエコ/コンフォート/ノーマル/スポーツの4等分にしたような感覚に対して、508SWのそれは、巧い俳優が目の前で喜怒哀楽を演じているかというほどに、メリハリがある。スポーツモードの激しさは同じクラスの競合他車より断然上手だが、エコモードでの三味線の弾きっぷりは肝の据わった鈍さという、強烈なコントラストだ。
文、写真:南陽一浩 Words&Photography:Kazuhiro Nanyo
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