8台のポルシェ911とともにその半世紀におよぶ歴史を振り返る旅

Photography:Andy Morgan

ポルシェ911の歩みは、自動車がこの半世紀の間にいかに発展したかを示す歴史そのものであり、新モデルの991はその集大成というべき存在である。長年ポルシェに憧れ、現在964 RSを所有しているリチャード・ミーディンは、同僚のジェスロ・ボヴィンドンと連れだって、8台の911とともにその半世紀におよぶ歴史を振り返る旅へと出かけた。

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ポルシェ911ほど濃密な歴史を有し、深く考察する価値のある車はほかにない。1963年にデビューして以来、フラットシックスをリアエンドに"吊り下げる" レイアウトを守り続けてきたこのスポーツカーくらい多くの議論を生み出した車はなかったと断言できるくらいだ。

この価値ある歴史を改めて振り返るため、私たちは991に始まって997、996、993、964と順に時代を遡っていき、さらに3.2カレラと1969年製2.2Tにも試乗することとした。また、評価の公正さと"純度" を保つため、テスト車はいずれもマニュアル・ギアボックスの後輪駆動モデルに限定した。テストするのは私とジェスロ・ボヴィンドンのふたり。舞台はシルヴァーストーンにあるポルシェ・エクペリエンス・センターで、あらゆる先入観や固定概念を排してテストに臨むこととした。
 
ただし、評価はあくまでも官能性のみを軸とし、発進加速やラップタイムは計測しなかった。
 
残念だったのはごく初期に作られたショートホイールベースの2.0リッターモデルや2.7カレラをこの場に用意できなかったことだが、半世紀にわたる歴史を8台の911で振り返るというのは、それなりに意義のあることだったと自負している。
 
歴代の911に囲まれた991を眺めていると、ほっとする気持ちと不安の両方を抱くことになる。なぜなら、そのスタンスやプロポーションは同じ911の血筋を感じさせるものだが、並外れて大きなそのサイズにはいささか不安を覚えてしまう。ひょっとして、ヴァイザッハは製造部門に設計図を送る前に、誤って110%の拡大コピーにかけてしまったのではないだろうか、と。
 
着座位置が低く、せり上がっているかのように見えるダッシュボードが遠く離れているために、否応なしにボディのサイズ感を思い知らされる。傾斜角を強めたウィンドウスクリーンもその傾向に拍車をかけている。もっとも、新世代のポルシェはフィニッシュ・レベルが極めて高く、その仕上がり具合には文句のつけどころがない。おまけに、イグニッションスイッチをひねれば、リアバンパーの近くからエンジン音が響いてくる。991が911ファミリーの一員であることは紛れもない事実だ。
 
991の魅力はまずこの車を操ることにあり、続いて何が起きているかを感じることにある。ギアボックスは横方向の動きがやや渋いものの、345bhpを発揮するフラットシックスは高回転を好む極めて活発な性格を有している。トルクはもうちょっと欲しいが、トップエンドに向けて繰り広げられるクレッシェンドはなかなか痛快だ。ただし、カレラSであればさらに生き生きとしたフィーリングを味わえたことだろう。
 


ポルシェ・エクペリエンス・センターの高速でややトリッキーなハンドリングコースを走っていると、ブレーキングとターンインを同時に行わなければいけないようなシーンでも息を呑むような快感を味わえる。そのグリップレベル、トラクション、そしてバランスの良さには本当に惚れ惚れとしてしまう。コーナーの進入では、スリップアングルとカウンターステアの操舵量とのバランスが絶妙なことにきっと感激するはず。もちろん、それは容易なことではないが、試すだけの価値は十分にある。
 
車との一体感も味わえるし、そもそもドライブそのものが実に楽しい。けれども、何かが失われてしまったような気がしてならないのも事実。ひょっとすると、車から伝わってくるフィーリングに物足りなさを感じているのかもしれない。ポルシェは、991ですべての欠点を拭い去った。それはどこか、プチ整形で小皺を取り除いたせいで、生き生きとした表情を失った女優に似ているような気もする。

編集翻訳:大谷 達也  Transcreation: Tatsuya OTANI Words:John Simister 

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